CVS雑誌配送問題 根本解決に向けて出版流通の価値アピールへ トーハン取締役副社長情報・物流イノベーション事業本部長・田仲幹弘氏に聞く

2024年1月17日

 日本出版販売(日販)が2025年2月で大手コンビニエンスストア(CVS)のローソン、ファミリーマートへの雑誌配送を取りやめ、トーハンが両社との取引を引き継ぐことを表明した。この間の経緯と見通し、そして書籍流通も含めた出版流通・取引に及ぼす影響などについて、トーハンで物流部門などを担当する田仲幹弘取締役副社長に聞いた。【星野渉】

 

たなか・みきひろ氏 1964年生まれ。87年東京出版販売株式会社(現株式会社トーハン)入社、2011年執行役員秘書室長、13年取締役総務人事部長、14年取締役海外事業部門担当、総務人事部長、15年常務取締役海外事業部門担当、総務人事部長、17年専務取締役海外事業部門担当、総務人事部長、18年取締役副社長、19年株式会社トーハンロジテックス代表取締役会長、23年取締役副社長情報・物流イノベーション事業本部長

 

CVS配送「やるしかない」と覚悟

 

──まずCVS2社の取引を引き受けられた経緯をお願いします。

 

 23年1月27日に日販の奥村景二社長が当社の近藤(敏貴社長)に一対一で会いたいといらしたのが最初でした。その時点で日販が24年2月でCVS両社の配送をやめると聞いて驚きました。

 

 我々が最も懸念したのは、仮に日販がCVS配送から撤退した場合、ローソンとファミリーマートが雑誌そのものの扱いをやめてしまうことでした。

 

 理由は二つあります。一つは出版輸配送が維持できなくなることです。首都圏と大阪、名古屋の都市部以外の共同配送からローソンとファミリーマートの荷物が抜けてしまった場合をすぐにシミュレーションしました。すると、配送コストの増加分が50億から60億円に達することが分かりました。

 

 当社も日販も取次事業は赤字の状況で、出版配送網の維持が難しくなることは明らかです。CVSへの配送維持は、書籍を含むトータルでの出版流通のルート構築、ひいては本と人との接点を維持していくため、必要不可欠だと考えています。

 

 もう一つは、週刊誌や一部娯楽誌系の雑誌にはCVSの販売比率がかなり高いものも多いので、雑誌の発行自体が成り立たなくなり、出版社の存続すら危うくなりかねない。雑誌を中心とした出版文化の危機の引き金になりかねないことを恐れました。しかし、その後、ローソン、ファミリーマートが雑誌の取り扱いは継続すると表明され、5月末には日販との取引終了後に当社が引き継げる可能性はあるかと打診がありました。

 

 当社は中期経営計画で3拠点ある雑誌センターのうち2拠点を廃止し、新たに1拠点新設して2拠点にする計画を進めていました。そのための新拠点が25年春に完成予定なのですが、返却予定の戸田センターを使い続ければ受ける余地ができるので、移転も考えると25年7月なら取引を始められるとお答えしました。

 

 戸田を継続利用することになれば、予定している経費削減効果がなくなるうえに、設備更新に数億円単位のコストが発生します。それでも輸送網維持のコストを考えれば、継続したほうが業界全体のためになる。出版業界全体を考えて当社がやるしかないと覚悟を決めました。そういう意味で、本件は営業的な競争によるいわゆる帳合切替とは全く違うのです。

 

 最終的に日販の奥村社長が9月初めにCVS2法人に25年2月末をもって雑誌配送をやめると通告し、9月中旬に2法人からあらためて当社に要請がありました。

 

 日販が取引をやめる25年2月末から当社が始められる7月までの4カ月の移行期間については、商取引は3月から全面的に当社が開始して、移行期間の仕入れ、配本、物流は日販が代行し、その間のコストの実費を当社に請求するという提案を日販からいただいています。日販とは提示いただいたスキームで移行ができるのか打ち合わせを始めています。

 

──CVS両社と以前から取引しているセブン―イレブンなどを合わせると取引先CVSは何店になりますか。

 

 セブン―イレブンが2万店強、それ以外のCVSが5000店ぐらいなので、ローソンとファミリーマートが全店加わると6万店近くになります。

 

──配送を継続できるローソン、ファミリーマートの店舗数の見通しはいかがですか。

 

 まだはっきりとは分かりませんが、読者の利便性を考え、また各FCオーナーのご意向もあると思うので、なるべく多く維持したいとは考えています。いま両社と話し合っているところです。

 

──セブン―イレブンへの配送は赤字になっていないのですか。

 

 現状は赤字ではありませんが、同様に厳しい状況であり、似たような構造になりかねない状況はあります。

 

書籍出版社にも相応の負担求める

 

──赤字になっているCVS配送をどのようにして引き継ぐことができるのですか。

 

 もちろんローソン・ファミリーマートと取引条件交渉はしています。25年時点の2社の店舗数など不確定要素もありますが、お互いの黒字継続を前提に協議しており、2社にも大変真摯にご対応いただいています。

 

 一方で、CVS問題が持ち上がる以前から、運賃の高騰を受けて私たちは出版社に協力をお願いしてきました。現状は雑誌とCVSの業量があるから、書籍と合わせて、輸送会社もなんとか現在の運賃で配送を続けているのですが、その現在の運賃でさえ、取次がマージンで負担できる範囲を超えており、出版社からの運賃協力金も追い付いていないことが、構造的な取次事業赤字の要因です。CVSとは関係ないようにみえる書籍出版社にも、「書店への流通維持」という自社にも関わる課題と捉えて相応のご負担をいただきたいというお話をしなければならないと考えています。

 

──書籍出版社も含めて負担を求めるために、どのようなことを考えていますか。

 

 いくつか論点がありますが、今のマージン体系で出版輸配送網を維持するコストを取次だけで負担するのは無理があります。われわれとしては、出版社にマージン率を変える、もしくは取引マージンとは別に運賃負担の協力をお願いしたいと考えています。

 

 他の産業はコストが上がれば小売価格に反映できますが、取次や書店は定価を変えることはできません。出版社には、紙代や印刷代と同様に、高騰が続く運賃や人件費といった流通費用も、実態に即して取引価格に反映していただけるよう、取次として現状をきちんとご説明していきますので、個別の協議を通じて一つ一つ合意形成を図れればと考えています。

 

 その当たり前のことがなかなか実現できないことに対するもどかしさがあって、それを多くの出版社にご理解いただきたいと思います。

 

 また、そのためにあらためて出版輸配送網の価値を訴えたいと考えています。いま雑誌の業量が全盛期の3分の1以下に減っているにもかかわらず、他産業の物流関係者からは「出版の点数・冊数は、とんでもない量だ」と驚かれます。

 

 それをほぼ毎日、全国の数万店舗に決まった時間帯で共同配送している。しかも運賃は、キログラム当たり40円台に高騰しているとはいえ、これより安い物流はありません。経済産業省の担当官も驚くほどの物流網が出版業界にはあるのです。

 

 それだけ価値のある出版物輸配送網の価値を、特に書籍出版社の皆さんに再認識してもらって、どうやって支え、活用していくかという観点を持っていただけるよう、当社として打ち出していきたい。

 

──安くて優れた流通とのことですが、他業界の物流を担うこともできるのではないでしょうか。

 

 まだ量は少ないですが、もちろんやっています。実は22年に取協としてCVS3チェーンと、雑誌を加工食品や雑貨、たばこなどと一緒に配送できないか研究しましたが、その時点では難しいという結論でした。また、以前から取協では新聞配送と一緒にできないかなど、いろいろ研究してきましたが、残念ながら先が見えていません。

 

 だからといって諦めているわけではありません。当社もセブン―イレブンとの間で一部やっています。ユニクロやGUのネット通販はセブン―イレブン店頭で受け取れますが、その店頭受け取り分は、当社の桶川から雑誌と一緒に配送しています。

 

 また、セブンネットショッピングの商品も9割ほどは店頭受け取りなので、それも出版配送で運んでいます。

 

製造と流通の連携による書籍流通の迅速化についても語る田仲副社長

 

「CVSの棚」の意義見直すべき

 

──配送を引き受けるとともに、これからも雑誌の販売促進により力を入れていくとのことですが。

 

 従来型の雑誌媒体を出版社の協力を得てキャンペーンを張るなど売り伸ばす努力は当然していきます。ただ、こうした施策は落ちるスピードを遅らせることにはなると思いますが、根本解決にはならないでしょう。

 

 われわれが考えているのは、CVSの棚を持っていることの意義を、出版業界全体でもっと前向きに捉え直すことです。

 

 他業種のメーカーなどはCVSの棚を確保するために大変な苦労をしていますが、雑誌は最低でも棚が1段はあります。

 

 3チェーン合わせると1日に5000万人以上が来店します。しかも、あまり本に興味がない方も多い。一般生活者に対するマーケティングの場、新商品や新サービス開発の実験やアピールの場、あるいは宣伝の場と捉え直すと、こんなに貴重な場所はありません。

 

 しかも、取次を通せば個別のチェーンと交渉しなくてもCVSの棚に商品が並びます。それを業界で最大限生かす方向で前向きに考えたい。今後はこのことを強くアピールしていきます。

 

DNPとの連携で「都市伝説」撲滅へ

 

──今後の書籍流通をどのように考えていますか。

 

 私は学生時代からずっと不思議でしょうがなかったのですが、書店店頭で本を注文すると、「2週間かかる」とか、「いつ来るか分かりません」といったことが都市伝説のように言われ続けてきました。なぜ取次を中心とした出版流通業界はその問題解決をしてこなかったのかと。

 

 もちろん努力がなかったわけではないとは、入社して分かりましたが、それでも取り組み不足は否めません。リアル書店とともに今後も生き延びていくには、読者・生活者が欲しいときにすぐ供給できるインフラを立て直さなければならないと考えています。

 

 その中で、大日本印刷(DNP)とのパートナーシップを得て、製造と流通の連携が具体的な形になり始めています。

 

 当社の在庫とDNPのデジタル印刷技術をリンクさせ、出版社の協力を得られれば、書店からの受注や当社在庫数の変動に応じ、即座に小ロット印刷して補充することで、基本的に品切れや入荷未定という概念をなくすことができます。当然、調達スピードも格段に速くなります。

 

 スタートはDNPとですが、出版社にご理解いただいて管理出版物が増えてくれば、以前からPOD事業で提携しているTOPPANにもお声掛けするなど、製造・物流の連携を広げていき、書店が欲しいときにすぐお応えできる態勢が整います。

 

 次の課題は、当社の定番商品を基本とする桶川在庫や「ブックライナー」と、桶川に移設したDNPグループの書籍流通センター(SRC)をどう連携・統合させていくのかを検討しています。これもしっかり構築して、デジタル印刷の仕組みともリンクさせれば、都市伝説を撲滅できると考えています。

 

──ありがとうございました。