文化通信社では、この6年間にわたり、ギフトブックキャンペーンとして『読書のススメ』『こどものための100冊』を発行し、「本を贈る文化」の醸成をテーマに取り組んできた。現在では両冊子ともに15万部規模となり、出版文化産業振興財団(JPIC)の協力を得て書店で配布するほか、高校生や大学生、若手社員など現役世代へ、また、保育園児の保護者や子ども用品の通販利用者など子育て世代にも届けている。
年を追うごとに、「本を贈る文化」の定着は、出版業界にとって単なる販売促進策の一つではなく、日本の読書文化そのものを再生する取り組みとの思いを強くしている。
「本を贈る」という営みは、贈る相手を思い、その人にふさわしい一冊を選ぶ時間そのものに価値がある。親から子へ、祖父母から孫へ、あるいは友人や恋人同士で手渡された本は、贈り手の思いや贈られた記憶を伴う特別な一冊となり、手元にきっと残される。
その積み重ねによって本棚が再び暮らしの中に存在感を持つようになる。私自身、親の背中だけでなく、親の本棚を見て育ってきた。本棚は単なる収納家具ではなく、家族の〝知の履歴〟であり、子どもの読書環境であり、来客との会話を生む文化の装置でもある。
では、どのような本がギフトにふさわしいのだろうか。もちろん答えは一つではなく、贈る相手の年齢や好み、人生の節目によって選ぶ本は異なる。本に限らず、映画や演劇、美術展など、心を動かす作品との出会いは、「誰かのすすめ」から始まることが少なくない。『読書のススメ』『こどものための100冊』で一貫して大切にしてきた考え方である。各界で活躍する著名人の皆さまに、それぞれの人生の中で出合い、心に残った一冊をご紹介いただいているのは、「人生の達人」が薦める一冊が、多くの人にとって本を手に取るきっかけとなり、さらに大切な人へ本を贈る契機にもなると考えているからである。
私は著名人でも「人生の達人」でもないが、私なら、子どもの頃に読んだ本をおすすめしたい。欲が報われる物語『ジャックと豆の木』と、欲によって救いを失う物語『蜘蛛の糸』。対照的でありながら、人間の本質を考えさせてくれる二つの作品。ほかにも、冒険と想像の世界に引き込まれた『ドリトル先生航海記』、機知とユーモアにあふれた『ゆかいな吉四六さん』、そして識(し)る喜びを教えてくれた百科事典。こうした、時代を超えて読まれてきた名作や教養書は、親から子へ、子から孫へ代々受け継がれ、普遍的な価値を持ち続けていくであろう。
さらに、「贈るための本」という市場が育つことは、文化的な意義だけではなく、出版業界や書店経営にとっても新たな可能性を秘めている。欧米では、装丁や造本にこだわったハードカバーが5000円、6000円を超える価格帯でもギフトや記念品として選ばれている。日本でも、贈答を意識した高付加価値の書籍が一定の市場を形成すれば、書店の販売単価向上にも寄与するだろう。加えて、「長く手元に置きたい本」「大切な人へ贈りたい本」という価値を出版文化の中に育てていくことにつながるのではないだろうか。
ギフトブックキャンペーンは、その文化を問いかける小さなきっかけづくりである。書棚に長く残る本が育っていく。そんな豊かな循環が日本の家庭に本棚を取り戻し、出版文化の未来につながることを願ってやまない。
【サイドコラム】
本は、贈り物のデザインになっているだろうか
「本を贈る文化」を考えるとき、出版界にはもう一つ考えてみてもよいテーマがある。それは、日本の本が「人に贈る本」としてデザインされているかということである。
欧米では、まず装丁にこだわったハードカバーが刊行され、その後にペーパーバックなどの普及版が出版されることが多い。長く書棚に残し、人に贈ることまで意識した本づくりという考え方が根付いているように感じる。
一方、日本の出版物は一般販売を前提としたものが中心である。その象徴の一つが「帯」。帯には販売促進という重要な役割があるだろう。しかし、帯を前提にデザインされた装丁も少なからずあり、贈り物として帯を外すと、間の抜けたレイアウトになってしまう本もある。
欧米では、帯はベストセラー受賞や映画化などの情報を伝えるため、必要に応じて付けられることが多い。一方で、装丁そのものは帯がなくても完成されたデザインになっている本が多い。
言うまでもなく、日本の出版文化には日本ならではの良さがある。帯が読者の興味を引き、新しい本との出合いを生み出してきた功績は大きい。しかし、本を「贈る文化」を育てていくのであれば、「贈りたくなる本」「書棚に長く残したくなる本」という視点で、ものづくりを考えてみてほしい。
販売するための本と、贈るための本。その両方が共存する出版文化は、日本の書店に新たな魅力を生み出す可能性を秘めていると信じたい。【山口健】
