【出版時評】2026年6月2日付

2026年6月2日

出版流通支えた鈴木敏文氏

 

 セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏が逝去した。93歳、日本の小売業に大きな足跡を残した偉人だが、大学卒業後にまず選んだ仕事は出版取次だったことは知られている。最後までトーハンの相談役を務めた。


 大学を出てトーハンに入り、出版科学研究所、そして広報誌の編集などを担当したという。やはり今年1月に96歳で亡くなった1990年代に同社を率いた上瀧博正氏は、鈴木氏の中央大学、そしてトーハンの先輩だった。


 鈴木氏が築いたセブン-イレブンは当初から雑誌を取り扱い、日本の雑誌市場拡大に大きな役割を果たした。書店からは競合と見られてきたが、その巨大な販売網は、雑誌をベースにした出版物の全国配送網を支えてきたともいえる。


 大手取次がコンビニエンスストアの流通から撤退した時期に、出版流通、そして日本の小売業を担ってきた先人が世を去る。時代の変わり目を感じさせる。雑誌の市場規模が激減し、全国配送網が揺らぐ今日の状況をどうご覧になっていたのだろうか。


 数年前、鈴木氏のもとに、フォーラムへの登壇をお願いしに伺った。90歳近くになってもトーハン時代のことをよく記憶されていて、流通や小売業に対する熱い思いを語っていた。あいにくコロナ禍で実現しなかったが、本紙連載「紙歴書」に登場していただきたかった。【星野渉】