本をもっと売るために、出版社や書店に何ができるのか。著者の魅力をどう引き出し、読者に届け、売上につなげていくのか。書籍販促を手がけるインスピレンサー株式会社は11月29日、東京・大手町で「インスピレンサー1DAYスクール2026」を開催する。世界的ベストセラー『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)の著者で、片づけコンサルタントの近藤麻理恵氏をメイン講師に迎え、著者のブランドづくりや発信力を生かした書籍販促の可能性を探る。出版社や書店など出版業界関係者が交流する機会も設ける。「ベストセラーは個人戦ではなくチーム戦」と語る同社の瀬田崇仁氏に、出版社や書店が今後取り組むべき書籍販促のあり方と、イベントの魅力を聞いた。

瀬田崇仁(せた・たかひと) 石川県金沢市出身。アチーブメント株式会社に入社し、経営やコンサルティング業務などに携わる。その後独立し、企業向けの経営コンサルティングや教育事業を展開。現在はインスピレンサー株式会社代表取締役として、書籍販促とクラウドファンディングを組み合わせた事業などを手がける。著書に『ひらめきはスキルである』(総合法令出版)がある。
イベントの詳細・お申し込みはURLまたはQRコードから
https://inspirancer-1day-school.hp.peraichi.com/261129

―今回のイベントを開催する経緯と狙いは。
私たちは書籍販促に特化したコンサルティング会社です。2023年1月の事業立ち上げから4年弱で、140人の著者、53社を超える出版社とご一緒してきました。携わった商業出版の64・8%が重版になり、10万部を超えた書籍も4点あります。
そうした仕事を続ける中で、個々の本をヒットさせるだけでなく、出版業界全体をもっと盛り上げたいと思うようになったんです。自社の売上や利益も大切ですが、それだけではなく、業界の発展にも貢献したい。そこで「業界知見の底上げ」をコンセプトに、著者や出版業界の皆さんに向けたイベントを開催してきました。
昨年はJPICの「BOOK MEETS NEXT 2025」のプロデューサー制度に参加し、トーハン本社で「出版営業」をテーマにしたイベントに220人、日販本社で「オンライン記事」をテーマにしたイベントに300人のお申し込みをいただきました。自社開催の「ブックデザイン」をテーマにしたオンラインイベントにも330人以上が申し込んでくださいました。「学びがあった」「業界を一緒に盛り上げよう」という声が、今回のイベント開催への後押しにもなっています。


トーハンや日販を会場に催したイベントには、多くの著者や出版関係者が参加した
今回もすでに240人以上のお申し込みをいただいており、当日までさらに増えると期待しています。多くの方に関心を持っていただけている理由は、ニーズに沿った企画、地道な告知活動、そして「出版業界を盛り上げたい」という趣旨に賛同いただいているからだと思います。これまでの開催実績の積み重ねも、私たちへの信頼につながっていると考えています。
著者の魅力を売上につなげる
―テーマは「パーソナルブランディング/セルフプロデュース」です。なぜ著者自身のブランドづくりが重要なのですか。
僕自身もビジネス書の著者ですので、今回のイベントのメインテーマは「自分自身が知りたかったこと」と「業界全体の役に立つこと」の二つを軸にして考えました。
私たちが約1年かけて販促戦略を手がけた『部下をもったら、いちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)は、単著で17万部まで伸びました。この経験から、本をさらに売り伸ばすには、一定の部数を超えた先でメディアやPRの領域を活用する必要があると感じています。

『部下をもったら、いちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)
もちろん、本の内容が良いことは大前提です。でも、それだけでは届かない読者もいます。著者自身の考え方や人柄、発信するメッセージに関心を持ってもらうことで、書籍がさらに広がる可能性がある。著者自身をどうプロデュースするかが重要になるんです。
編集者の中にも、書籍づくりと並行して著者のブランディングを助言できる方はいます。ただ、その重要性を知らない著者も多く、体系的に学ぶ機会も限られています。著者の魅力をどう引き出し、社会に伝えるか。これは編集者や営業担当者にとっても、ますます重要なテーマだと思います。だからこそ、この機会に出版業界の皆さんに学んでいただきたいです。
―講師に近藤麻理恵さんを迎えた理由は。
このテーマで最も説得力のある講師は誰だろうと考えたとき、浮かんだのが近藤さんでした。著書は世界で1400万部に達し、米『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、Netflixでの世界配信など、多くの実績があります。
ただ、知名度だけでお願いしたわけではありません。以前、オンラインで講義を聞いたとき、出版前や世界でブレイクする前から何を準備し、どんな行動を取っていたのかを具体的に話されていたのが印象に残っているんです。しかも、ほかの著者にも参考になる、再現性のある内容でした。
今回の講演では、出版前の準備や世界に活動を広げるまでの取り組みに加え、日々の習慣や発信の工夫なども伺う予定です。単なる成功談ではなく、著者も編集者も営業担当者も、自分の仕事に持ち帰れるヒントを得る時間にしたいと思っています。
近藤さんの夫で「プロデュースの学校」創設者の川原卓巳さんにモデレーターをお願いしました。川原さんとは、最初に勤めた会社が同じなんです。川原さんにも出版業界を盛り上げたいという趣旨を伝え、約1年前から準備を進めてきました。
講師への依頼、大型会場の確保、撮影などを合わせると、満席でも収支はほぼトントンです。それでも開催するのは、出版業界を盛り上げたいという強い思いがあるからです。
ベストセラーは 「チーム戦」
―売れる本や重版する本には、どのような共通点がありますか。
約140件の書籍販促に4年弱、真剣にかかわる中で感じていることは、大きく分けると「本自体の力」と「本を広げる努力」の二つです。
「本自体の力」には、タイトルやブックデザインによって手に取ってもらえるか、そして読んだ人が口コミしたくなる内容か、という二つの要素があります。特に今はSNSを通じて読者の感想が広がる時代です。僕は1年半以上、Xで書籍に関する投稿が大きく拡散された事例を170以上記録しています。ある日突然話題になり、そこから売れ始める本も数多く見てきました。
スマートフォンのゲームや動画配信など、本以外に時間を使う選択肢が増えた一方で、SNSによって新しい読者に届く機会も生まれています。本の表紙、読者の感想、著者のキャラクターやメッセージも、本を広げるきっかけになります。実際、SNS上の投稿が拡散した直後に、ネット書店・リアル書店で注文が増える事例もあります。どんな言葉や切り口が読者の心を動かしたのかを考えることは、発売後の販促だけでなく、企画や編集の段階でも役立つはずです。
もう一つの「本を広げる努力」は、出版社、著者、取次、書店、僕たちのような販促の専門家が一丸となって取り組むことです。ベストセラーを生み出すために必要なのは、個人戦ではなく「チーム戦」だと思っています。

書店からフェアの相談を受けてアイデアを提供。Xで拡散され、メディア取材が来るほど盛り上がったことも
―出版業界全体の課題をどう捉えていますか。
僕たちの立場から取り組める課題は二つあります。一つはユーザー、つまり未来の読者を増やすこと。もう一つは、本を売る場所や人というプレイヤーを増やすことです。今の読者に本を買ってもらうことも大切ですが、まだ本に触れていない人や、読書から離れた人にも、本を選択肢に入れてもらいたいんです。
2027年には未来の読者を増やす大型イベントも企画しています。例えば、スポーツをしている人に読書の価値を伝える企画です。読書家のトップアスリートに本を読む理由を語ってもらうことで、普段書店に行かない人にも魅力を届けられるかもしれません。
最近、大阪の中高一貫校で、国語の授業にビブリオバトルを取り入れていると聞き、見学に行きました。そこで感じたのは、本の内容だけでなく「その本とどう出会ったのか」を伝える大切さです。
書店で偶然手に取ったのか、友人に勧められたのか。出会い方を知ることで、「自分も書店に行こう」「誰かに薦めよう」という行動につながるかもしれません。本との出会い方を伝える文化も、業界全体で広げたいと思っています。

経済産業省の書店振興プロジェクトからも評価され取り上げられた
出版業界の未来拓く「越境体験」
―出版業界がさらに発展するためには、何が必要でしょうか。
重要なキーワードは「越境体験」です。この4年弱、著者や出版社だけでなく、取次、書店、業界団体など、さまざまな立場の方と仕事をしてきました。書店からフェアの相談を受け、助言した展示がSNSで大きな反響を呼び、メディアに取り上げられたこともあります。
今の三省堂書店神田神保町本店がグランドオープンする前ですが、小川町の仮店舗で1日インターンをさせていただき、開店準備から閉店後の業務までを経験しました。出版社の社内勉強会でも250人以上の方にお話ししてきました。僕自身、出版業界の外から入ってきたからこそ見える視点や、持ち込めるアイデアがあったと思います。
出版業界の未来を切り開くヒントは、自社や業界の中だけでなく、外にもあるはずです。出版社や書店の皆さんはそれぞれの領域で専門性を磨いていますが、日々の仕事に追われていると、どうしても視野が狭くなりがちです。だからこそ、普段とは違う立場の人と話すことが大切だと思うんです。
今回のイベントでは、著者、編集者、営業担当者、書店員などが一堂に会します。講演で学ぶだけでなく、普段は違う立場で仕事をしている人と交流し、新たな発想や仕事のヒントを持ち帰ってほしい。まさに「越境体験」の場にしたいと考えています。

イベントで参加者に語りかける瀬田氏
業界の交流の場へ参加者募集
―このイベントに参加したいと考えている出版業界の皆さんへ、メッセージをお願いします。
11月29日(日)の12時30分から18時45分まで、東京・大手町駅直結のカンファレンスホールで開催します。プログラムは参加者同士の交流、近藤麻理恵さんによるセミナー、終了後の懇親タイムの3部構成です。紀伊國屋書店様や三省堂書店様をはじめ、10を超える企業・団体にブースを出展していただく予定です。
今回は講演を聞くだけでなく、新しいご縁をつなぐ場でもあります。著者にとっては書店や出版社の取り組みを知る機会になり、出版業界の皆さんにとっては、著者がどのような悩みや課題を抱えているのかを直接聞ける場にもなります。普段の仕事では生まれにくい接点から、新しい取り組みが始まることも期待しています。
出版社や書店に勤務する方には、通常2万2000円(税込)の参加費を5500円(同)とする特別価格を設けています。部分参加でも構いませんので、たくさんの方々にぜひ足を運んでいただきたいです。
僕が好きな言葉に「素敵な未来はみんなでつくる」というものがあります。出版業界の未来も、1人の著者や1社の出版社だけで変えられるものではありません。それぞれの立場で頑張る人がつながり、力を合わせることで、もっともっと良くできると思うんです。
今回のイベントでは、一人ひとりが自分の仕事を見つめ直すとともに、業界を盛り上げたいという熱意に触れ、新しい出会いや学びを持ち帰っていただきたい。そして「明日からちょっとやってみよう」と思えることが一つでも見つかればうれしいです。
―ありがとうございました。
