新潮文芸振興会は10月9日、東京・港区のオークラ東京で第25回小林秀雄賞、新潮ドキュメント賞の贈呈式を行い、小林秀雄賞は藤原辰史氏『生類の思想 体液をめぐって』(かたばみ書房)、新潮ドキュメント賞は繁延あづさ氏『鶏まみれ』(亜紀書房)が受賞した。

藤原氏(左)、繁延氏
開会のあいさつに立った佐藤隆信理事長(新潮社社長)は、『生類の思想』は生き物とその環境への関心から生きることに迫る作品、『鶏まみれ』は人が食べる鶏の肉という現実に徹底して迫る作品だと紹介した。そのうえで、二作を併せて読むよう呼びかけた。

佐藤理事長
小林秀雄賞選考委員の森田真生氏は、藤原氏の文章と小林秀雄の文章に響き合う点として、大きな問いと格闘していること、思想に内在する統一があふれ出ていること、言葉を尽くす姿勢の3点を挙げた。そのうえで、小林秀雄賞にふさわしい作品だと評価した。

森田氏
受賞者の藤原氏は、同書には、これまで保育士や小学校教師のサークル誌、ホームレス支援の冊子などに寄せた原稿も含まれると説明。「自分が書いていると思うなよ」と自らに言い聞かせているといい、さまざまな人の言葉や人が作った場が文章を書かせていると語った。

藤原氏
新潮ドキュメント賞選考委員のブレイディみかこ氏は、台所という生活の現場から思想が広がっている点を『鶏まみれ』の特徴に挙げた。鶏の内臓の色や形を詳細に描きながらその美しさに問いを向ける場面や、鶏を殺して食べることと、その肉で子どもたちが育つことを併せて描く点に、人間が生きることの両義性を見たという。

ブレイディ氏
ブレイディ氏はまた、ノンフィクションの書き手がジャーナリストなど、すでに発信の場を持つメディア関係者に偏っていると指摘。「地べたの声は、拾ってくれる人がいなければ上がらない」と述べ、何の後ろ盾もない場所から本を出す書き手を選ぶ意義を強調した。
受賞者の繁延氏は、執筆中は自分の視界に入る範囲しか書けないという不安があったと振り返った。また、鶏を育て、殺して食べている現在の暮らしについて、当然のことと考える一方で後ろめたさが残り、周囲には話しにくいと感じてきたと明かした。ブレイディ氏が食べることと並べて殺すことの両義性を挙げた言葉に救われたと語った。

繁延氏
