【TOKYO RIGHTS MEETING 2025特集】株式会社パピレス 電子書籍配信のパイオニアが挑み続ける世界戦略 翻訳から現地書店への配信・プロモーションまでサポート

2025年11月4日

 2007年のサービス開始から18年で会員数1050万人を突破し、現在、配信作品は130万冊以上という業界最大級の電子書籍サイト「Renta!」を運営する株式会社パピレス。同社が推し進める海外展開の状況について、代表取締役社長を務める松井康子氏と海外事業部営業リーダー・太田有紀氏に話を聞いた。

 

多言語によるコンテンツ配信

 

 同社の基幹事業である電子書籍レンタルサイト「Renta!」は、07年に国内サービスを開始。現在はその海外版として英語版と繁体字版(台湾向け中国語)の2つの直営サイトがあり、繁体字版は14年に台湾で「パピレス台湾」を、英語版は17年にサンフランシスコで「パピレスグローバル」という子会社をそれぞれ設立して運営している。さらに19年には海外向けの電子取次会社として「アルド・エージェンシー・グローバル(AAG)」を設立し、出版社に対して翻訳なども含めた海外展開のサポートを行っている。

 

 英語版と繁体字版の「Renta!」には、現地の出版社のほか翻訳済みコンテンツを持つ日本の出版社などを含め、現在、英語版は約80社、繁体字版は約110社の取引先があり、AAGが海外への翻訳を前提として取引している出版社数は約40社、翻訳されたコンテンツを卸している電子書店は英語、繁体字、韓国語などを合わせると59店になる。

 

英語版Renta !

繁体字版Renta !

 

 19年に海外への電子書籍の取次を行うAAGが設立された背景には、「Renta!」の英語版(11年)と繁体字版(13年)を扱う子会社を設立した頃はまだ翻訳済みコンテンツ自体が少なく、各出版社から許諾をもらって自社で翻訳して配信する形で事業を行っていたが、やがて世界の各地域で電子書店が増えてきたことを受けて、同社がそれまで翻訳してきたコンテンツのストックを生かす目的もあって取次会社としての「AAG」を立ち上げ、配信とその付帯業務を始めることとなったという流れがあった。

 

 AAGでは1社で繁体字、簡体字、英語、韓国語など複数の言語で作品の配信が可能であり、海外に向けた配信を包括的にサポートすることができる。

 

15年積み重ねてきた翻訳のクオリティー

 

 同社がこれまで翻訳した作品数は、英語版では累計3000シリーズ、繁体字版では累計4000シリーズにも及び、シリーズによってはある程度まとまった巻数が含まれることを踏まえると膨大な翻訳数を手がけてきたと言える。

 

 同社は作品の根幹に関わる翻訳のクオリティーについて、ユーザーに課金するうえでも非常に大切な要素であると捉えている。そのため、英語版は運営母体がある日本に5人体制のネイティブ翻訳チームを置き、繁体字版は台湾現地にネイティブの編集部を設けて、それぞれクオリティーの維持に取り組んでいる。

 

電子コミック市場の現在と可能性

 

 近年の電子書籍のマーケット動向として、コロナ禍の時期には世界的に外出が控えられたこともあり、たくさんの電子コミックが読まれた。海外では紙版で読まれることの方が多いといわれるが、電子書籍の市場も確実に拡大している。一方で、その後の一部配信サイトでのアダルトコンテンツに対するクレジットカード決済の規制や、ウェブ広告の制限といった影響もあって一度は落ち着きを示したが、規制や制限の対策をしたうえで新たに参入してくる電子書店も増え、25年は再び好調に推移しているという。

 

 英語圏と繁体字圏それぞれの市況について、同社海外事業部の太田有紀氏は今年ニューヨークで開催された大規模なアニメコンベンション「Anime NYC」を訪問したことに触れ、「かなりの入場料にもかかわらず、中学生や高校生など若い人が多い印象だった」と語り、「彼らのような若年層がアニメをきっかけに原作のマンガを購買するようになれば、また一段と市場が大きくなるのではないか」と、これからのポテンシャルに期待を示す。

 

Anime NYC 会場のRenta !ブース

 

 一方、繁体字圏に関しても台湾の電子書籍マーケットは非常に成熟しており、ユーザーが翻訳コンテンツを読むことに慣れていて固い市場であると見ている。同社は繁体字版の女性向けコンテンツでナンバーワンの電子書店という地位を保ちながら、今後も堅調に売上を伸ばしていく見込みだ。

 

現地でマニア層と持続的な関係づくり

 

 電子書籍マーケットにおけるコミックユーザーの特徴として、マニア層から一般層へという拡大の流れがある。同社では英語版「Renta!」の主力商品であるBL/TL/少女/ロマンスなどのコンテンツを比較的長く利用する傾向があるマニア層を大切にする施策に力を入れている。

 

 例としてこれまで4回ほど開催している「ファンレター企画」がある。英語版「Renta!」のBLユーザーには作家に対する愛がとても強いユーザーが多数いるが、なかなか日本のように手紙をイベントで手渡したり、編集部に送ったりすることは難しい。そこで「Renta!」が英語のファンレターをまとめて日本語に翻訳して出版社に送り、作家から返事をもらって英語で公開するというもので、ユーザーに満足してもらえる大切な施策のひとつになっている。

 

 また、BLのコンベンションとして知られる「シトラスコン(Citrus Con)」へもスポンサーやパネリストとして例年積極的に参加している。「シトラスコン」はまだ小規模ながらも主催者、参加者ともにマンガ業界に対する意識が高く、自分たちが電子書店でコンテンツを買うことが作家や業界の支援につながるという強い意志をもったユーザーが集まる場で「Renta!」をプロモーションするほか、いちファンとして交流する中で得た情報などを、各取引先との打ち合わせやオリジナル企画へフィードバックして役立てているのだという。

 

信頼支えるレーティングと海賊版対策

 

 アダルト表現や暴力表現を含むコンテンツは海外でレーティング(年齢制限)の対象となるが、コンテンツ自体よりも、きちんとゾーニングされているかというサイト設計が問題視される。同社では英語版、繁体字版ともに年齢制限のボタンを設けることでこうした点をクリアしている。

 

 一方で、暴力表現など判断が難しい作品について、代表取締役の松井康子氏は「作品によってテイストが異なり、どうしても現地の基準に照らし合わせて確認しながら対応しなければいけない部分があるが、最終的には自社の判断で管理している」とし、「長年レーティングについて取り組みをしてきたので、そこも含めてお任せいただければ、さらにノウハウも積み重ねていける」と話す。

 

松井代表

 

 また、海賊版に関しては著作権侵害など長年の社会問題でもあり、同社にとっても非常に頭を悩ませている問題だという。そのことについて太田氏は「もちろん文化的な歴史の一部として、かつてまだ少ないファン同士が交流する場が海賊版サイトだったという背景も理解しているが、業界のこれからの発展のためには海賊版対策はしっかり行うべきだと考えている。Renta!には正規版を購入することで業界を支えたい、作家に貢献したいと思ってくれるユーザーも多い。そういうユーザーを大切にしながら、通報や削除対応もしっかり行っていきたい」と、毅然とした対応を続ける考えを示す。

 

次世代のマンガアニメーション「アニコミ」

 

 近年、同社ではアニメとコミックスの中間とも言える「アニコミ」にも力を入れている。「アニコミ」はマンガにモーションと音声を付加することで、従来とこれからのマンガやアニメのファンへ新しいコンテンツ体験を提供するというもの。同社では縦スクロールで制作した『聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~』の英語圏でのヒットを機に、アニコミ、アニメPVとしても多面展開。中でもアニメPVは今年9月にアメリカでの「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」の公開に合わせ、本編が始まる前に「シネアド」として上映された。

 

 代表の松井氏は「『アニコミ』のようなアニメとコミックをミックスさせた次世代コンテンツ開発も、自社のアピールポイントであり、将来的には、『アニコミ』の販売も強化していきたい」と期待を添えた。

 


 

株式会社パピレス

代表者:松井康子

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