【出版流通特集2022】大村紙業 「Re出版」掲げ進化続ける出版倉庫 出版流通のイノベーションをサポート

2022年10月6日

 大村紙業は約400社の出版社から物流業務を受託する出版倉庫業の大手だ。埼玉県春日部市に敷地面積1万4800坪、延床面積1万2500坪、在庫冊数3000万冊の「庄和流通センター」を構え、POD で小ロット重版を可能にする「BOD(ブックオンデマンド)」事業といった、倉庫業にとどまらないサービスも提供するなど、出版社を支える体制を整える。10月1日にはこうした自社の各事業を動画で紹介するホームページリニューアルを行った。また、BODのキャンペーンを展開し、出版社から大きな反響を得たほか、物流面では「フリーロケーション」や「ゾーン・ピッキング」を導入するなど、進化を続けている。

 

物流拠点・システム整備に注力

 

 同社は「庄和流通センター」を中心に6拠点で総在庫冊数6800万冊(良本4100万冊、返本2700万冊)、在庫点数16万点を管理。平均的な月間業量は新本入荷数500万冊、返本入荷数200万冊、直送出荷(宅配便等)100万冊、取次出庫数(アマゾン出荷含む)300万冊、改装冊数90万冊の規模を誇る。


 中心となる「庄和流通センター」には移動式ラック3基、書籍自動仕分機2台、トライオート3台、自動研磨機2台、自動カバー取り外し機3台、古紙圧縮梱包機1台、オンデマンド印刷機カラー・モノクロ各1台を配備。


 システム整備にも注力し、取引出版社が在庫や入出庫の状況を確認したり、出荷や改装、断裁などを指示できるWebサービス「OS―WEB」の提供や、新出版ネットワーク対応やアマゾンとのEDI連携、書店などからの注文情報の完全デジタル化、取次請求業務代行といったサービスメニューを拡充している。

 

ホームページでコンセプトなど動画公開

 

 リニューアル後のホームページでは動画を掲出する。動画は「コンセプト」、「サービス全般」、「BOD」、「コールセンター」、「商品保管」、「取次出庫」、「直送出庫」、「返品入庫」、「改装処理」、「受注実績」、「OS―WEB」、「断裁処理」の12本。いずれも1~2分と見やすい長さで製作した。


 コンセプト動画では、自社を「出版物流アドバイザー」と位置づけ、サステナビリティ―やイノベーションを実現するため、各事業を「Rethink」「Reuse」「Reduced」「Recycle」などに位置づけ、これらに共通するReを冠した「Re出版」で出版業界に最適化、改革を新たに提案していくことをコンセプトに掲げている。


 大村直紀社長は動画の中で「お客様の声が教科書だった」と述べ、それに基づいて自社のサービスを構築したと話している。


 「BOD」は50部から最短3日で制作する体制。「コールセンター」は庄和流通センターに5人と幸手流通センターに5人を配し、書店からの電話やFAX、メールなどの受注に対応するほか、受注情報の電子化など、出版社の要望に対応してカスタマイズしたサービスを提供する。


 「商品保管」はパレット単位でのRFIDによる棚管理を実施し返品・良品を管理。「取次出庫」と、献本・個人などを含めた「直送出庫」ではリストチェックとバーコードスキャンによるダブルチェックを実施。「返品入庫」はバーコードによる検品体制を徹底し、「改装処理」オートメーション化を実現している。


 「受注実績」はスリップやFAXの注文を入力しているほか、出版社がWebで17時までに入力した注文は当日扱いで出庫する。「OS―WEB」は取引出版社がウェブ上で良品・返品の在庫状況などを確認したり、直送出庫の状況をトレースできるサービスも提供する。

 

「断裁処理」は出版社の負担金なしで行うことが可能で、年間2万トンの実勢を持つ。


 ホームページではこうした業務の紹介のほか、取引出版社の一覧を掲載し、こうした出版社の声も紹介する。現在、情報の集約を進めており、10月中には公開の予定だ。

 

BODキャンペーンに大きな反響

 

 BOD事業は2015年6月から開始し、この6年間で40社ほどの出版社が利用し、月間3000冊ほど制作している。一度利用した出版社の95%が定期的に製作するなどリピート率が高いサービスだ。


 今年3月にオンデマンド機を更新し、フジフィルム製のモノクロ機「Revoria Press E1136P」とカラー機「Versant 3100i Press」を導入。いずれも印刷精度が向上し、特にカラー機は調整の幅が広がったことで、出版社からのシビアな要望にも応えられるようになったという。

 

新たに導入したオンデマンド機(手前がモノクロ機、奥がカラー機)


 機器更新に合わせて6月からは、「BOD」を利用したことのない取引出版社にデータの受け渡し方法や品質を確認してもらうため、無料で1社につき2点各1冊のサンプルを制作するキャンペーンを開始。さらに9月までのキャンペーン期間中は作成したサンプルを50冊まで無料で提供した。


 キャンペーンで反応のあった出版社は45社と、これまでの利用出版社の数を上回るほどだった。このうち半数ほどがすでにサンプルを制作し、実際に300~500冊の制作依頼も入っている。


 同社では、もともとリピート率が高いニーズのあるサービスだけに、これをきっかけに「BOD」を活用する出版社が増えるとみている。

 

「ゾーン・ピッキング」導入

 

 物流事業では、9月1日から一部の出版社で、動きの速い商品と遅めの商品をゾーンに分けてピッキングする「ゾーン・ピッキング」を導入。これに伴い在庫の置き場所を固定しない「フリーロケーション」も実現した。

 

「ゾーン・ピッキング」のエリア。動きの速い新刊・重版はパレットで管理

 

 「ゾーン・ピッキング」は新刊や重版など動きの速い商品を手前に置き、そのほかも出荷スピードに応じてゾーンに分けて配置。奥に行くほど出荷スピードが遅い商品になる。これによって、ピッキング作業で動く範囲を狭くすることができ、生産性の向上につながる仕組みだ。

 

「奥ほど動きの遅い商品。棚のスペースも狭くなる

 

 同社では、以前はISBN順でピッキングのレイアウトをしていたが、18年前に棚番管理を開始。しかし、基幹システムが対応していなかったため、フリーロケーションは実施できなかった。


 しかし、この3年ほど物流管理システム「WMS」をカスタマイズしてフリーロケーションへの対応を可能にした。これによって、出荷数によって絶えず在庫の置き場が変わる「ゾーン・ピッキング」も導入できることになった。

 

DVDなども同じ箱に違う商品が混在する

 

 「ゾーン・ピッキング」は商品アイテム数が多く、出荷数が多く、動きがはっきりしている商品でより有効なため、稼働点数7500点というこうしたタイプに合う出版社でスタートした。


 ピッキングエリアには、動きに応じたA~Gのゾーンを設定。特に動きが速い新刊や重版などは棚に入れずパレットで保管。そのほかは動きが速いほど棚のスペースを大きくとっている。


 「ゾーン・ピッキング」を実施しても従来に比べて保管スペースを広くする必要はなく、作業効率が向上するという。また、フリーロケーション導入によって、従来は1日のタイムラグが発生していたロケーションの登録がリアルタイムに反映できるようになった。

 

書籍と棚のバーコードをハンディターミナルでスキャンすることで在庫登録

 

 

 こうして、同社は物流作業から「BOD」による生産出荷体制づくりなど、出版流通の変化に対応する進化を続けている。

 

 

大村紙業株式会社
代表者:代表取締役 大村 直紀
所在地:〒121-0064
    東京都足立区保木間1丁目10番11号
創 業:昭和35年4月1日
従業員:約600名
庄和流通センター
所在地:〒344-0113
    埼玉県春日部市新宿新田14
T E L:048-718-3231
F A X:048-718-3230

 

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