【出版流通特集2022】デジタル技術を活用した新たなサービス提供 激変する出版流通 倉庫業者も迫られる対応

2022年10月6日

 出版流通が大きく変わろうとするなか、出版物の物流を担ってきた倉庫会社も新たな環境に対応しようとしている。物流管理のDXをはじめとして、その場で1冊単位、もしくは極小ロットで本を制作する技術「プリント・オンデマンド(POD)」、さらにはAIの活用やコンテンツの再生など、デジタル技術を使った新サービスも登場している。ここでは、出版倉庫業者として長年の歴史を持つとともに、新たなサービスを提供し続ける株式会社ニューブックとセルン株式会社、大村紙業株式会社による最新の取り組みを紹介する。

 

流通変化に新技術で対応

 

 かつての出版流通は、新刊や既刊、注文品と委託扱いなど種別はあったものの、ものの流れは配本、返品、再出荷という比較的単純な構造だった。しかも、流通するのはほとんどが紙の書籍、雑誌、対象もほぼ書店やコンビニエンスストアに限られていた。


 これを、日々発行される雑誌の配送便に乗せて全国に届ける、日本独特の取次・書店ルートが担っていた。低コストで全国の書店にほぼ毎日、雑誌や書籍が届けられる出版流通は、他国には見られない極めて効率的な仕組みだったといえる。


 しかし近年、雑誌の販売量が急激に減少し、全国に張り巡らせた流通網の維持が難しくなっている。すでに通常の配送便では届けられなくなり、宅配便で配本せざるを得ない地域も出現しているといわれる。


 大手取次各社は「マーケットイン」の号令の下、大量送品・大量返品の流れを断ち切ろうとしている。そのために、配送ルートの見直しや、配本へのAI活用、書店や出版社とのデータ共有などの取り組みを進めている。


 また、大手出版社と総合商社が設立した新会社が、RFID(Radio Frequency Identification)による書店店頭での商品管理や、発行部数決定にAIを活用する事業などを始めようとしており、出版社も流通の変化に新技術で対応する必要性が高まっている。

 

効率化と付加価値の提供が必須

 

 出版社から業務委託を受けて在庫保管や取次への入出庫、返品改装などを担ってきた出版倉庫業者も、こうした出版流通の変化への対応が欠かせない。取次納品だけではなく、アマゾンへの直接納品や、書店や他の小売業から個人宅までの配送に対応したり、受注などを受け付けるコールセンターを運営するなど多様化する業務に対応する。


 さらに、物流拠点で製造まで行うPODのシステムを導入し、迅速な出荷サービスを提供する事業者も増えている。これから出版倉庫業者が出版社のニーズにこたえるためには、こうした新技術導入による効率化と付加価値の提供が必須になってくるだろう。


 今回紹介する両社は、いずれも近年、積極的に投資をしながらサービスの革新に取り組んでいる。株式会社ニューブックはいち早くPOD導入、さらに事業分割して設立したセルン株式会社では、出版物の直接販売も可能なECサイトを開設。出版物のデジタル化サービスも提供するなど、物流事業にとどまらないサービスを展開している。


 そして大村紙業株式会社は、2017年に敷地面積1万4800坪、延床面積1万2500坪、在庫冊数3000万冊の「庄和流通センター」を開設。同時にPODの設備を導入して、「BOD(ブック・オンデマンド)」サービスを開始した。


 出版流通がさらに変化する今日、出版社はこうした動向を踏まえて、パートナーを選択する必要があるだろう。

 

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