平凡社 東洋文庫『流行性感冒』を無料公開で重版へ

2020年4月10日

東洋文庫として四半世紀ぶりの重版となる

 

 平凡社はこのほど、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、10年以上前に初版を刊行し品切れになっていた東洋文庫778『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』(本体3000円)をウェブで全文無料公開したところ、ツイッターなどでの反響が多く重版を決めた。東洋文庫の重版は四半世紀ぶりだという。

 

 同書は1918年から20年にかけて世界的に流行したインフルエンザ(スペイン風邪)について2年後の22年に日本の内務省衛生局が刊行した報告書を翻刻し、解説を付けたもの。

 

 2008年に東洋文庫778として初版2700部で発行。2年ほどで品切れとなり、重版未定のまま10年ほどが経過していた。

 

 同社が同書の全文を「ジャパンナレッジ」やPOD版のために制作したPDFで3月27日から4月30日までの期間限定で公開したところ、ツイッターで反響があり1000部の重版を決めた。重版分は28日取次搬入となる。

 

 「SNSやインターネットの情報が届きにくい方にも、ぜひ読んでほしいという思いもあった」(編集部・下中順平執行役員)という。

 

 下中美都社長によると、2009年に新型インフルエンザが流行したときにも重版を検討したが、このときはできなかったという。しかし、今回は「出版社として何かできることはないか」と考え、編集部門からの提案で無料公開に踏み切ったところ、すぐに多くの反響があって重版に至ったという。

 

 下中社長は「出版社には、のど元過ぎたら忘れてしまうようなことも残していく使命がある。今回、感染拡大が終息した後の世界がどうなるのかを見通すこともできない。この本は専門的な内容ではあるが、そういう時代に示唆に富む本だと思う」と話している。