【詳報】講談社 第81期決算「出版の再発明」着実に進む、紙出版物の価格施策も積極的に

2020年3月6日
 

 講談社が2月20日に発表した81期(2018・12・1~19・11・30)決算は売上高1358憶3500万円で前年比12・7%増、当期純利益は72億3100万円で同152・9%増の大幅な増収増益となった。

 

講談社・野間省伸社長

 紙書籍・雑誌の売り上げが年々減る一方で、デジタルや版権ビジネスが大きく伸長。営業利益は66億円増の89億円、経常利益は65億円増の112億円になった。本決算について「21世紀に入って最高の数字」と述べた野間省伸社長は「今期に紙の売り上げよりも(デジタルなどの)事業収入が大きくなるだろう」と見通しを示した。

 

 2015年、事業局制導入など大規模な組織再編をへて「出版の再発明」を進めてきた成果が着実に数字に表れてきた。また、直近の3月に東京・池袋にオープンするエンタメビル「Mixalive TOKYO」(ミクサライブトーキョー)について「新しい挑戦ではなくむしろ必然。出版の一つの形」と述べた。

 

講談社主要収益の推移 単位(百万円/%)

 

 81期決算は、デジタルと海外版権事業が牽引した。デジタル媒体での販売宣伝を積極的に行った結果、費用は増えたが返品率は改善した。

 

 売上高の内訳は、紙の書籍・雑誌が643億1000万円(同3・9%減)。書籍は159億6000万円(同0・5%減)、雑誌全体は483億5000万円(同5・0%減)。そのうち雑誌は123億6200万円、同14・3%減、コミックは359億8800万円、同12・6%減。

 

 『進撃の巨人』のロングヒットに加え『転生したらスライムだった件』『五等分の花嫁』などが期中にアニメ放送され、売り上げに貢献した。

 

 吉富伸享取締役は「以前より進めてきた企画の厳選、発行部数の適正化に向けた取り組みが原価の削減、返品減少をもたらし利益率改善に大きく貢献した」と説明した。

 

 広告収入は59億2600万円(同18・4%増)。事業収入は613億7000万円(同38 5%増)で、そのうちデジタル関連収入が465億円(同39・2%増)、国内版権81億円(同36・5%増)、海外版権が66億円(同39・5%増)。

 

 海外の収入上位は北米、中国、フランス、韓国、台湾。特に北米は海外版権収入の4分の1超。現在38の国・地域と取引実績があるという。その他が10億6700万円(同0・5%増)。不動産収入が31億6000万円(同0・3%増)だった。

 

 好決算の主因は伸びが著しい電子版売り上げと版権事業によるところが大きい。ただ、落ち込みが続く紙媒体についても光明がみえてきたようだ。野間社長は、紙版の利益率が大幅に改善したことから「工夫次第でまだまだ紙製品はビジネスになる。本業の大きな柱であり続ける紙製品の魅力をこれからも広く強く発信していく」と自信をうかがわせた。

 

 金丸徳雄専務も紙製品の返品が減り廃棄費用が低減できたことで「紙の利益は伸びる。これが続くようにしたい」と述べた。

 

 紙版売上再浮上のカギの一つは「ここ数年意識的に行っている」(野間社長)価格政策となりそうだ。近年各ジャンルにおいて紙版の本体価格の値上げを進めてきたが「ただ高くするわけではない」と強調。

 

 電子コミックの期間限定無料や人気シリーズのセット販売などで得たノウハウを紙媒体での価格政策にも応用し、コミック映像化の際、既刊販促として、単巻購入と異なる価格設定のセット商品も投入。単巻で1冊ずつ買うよりもセットで買う方が安くなることで購入動機を高める狙いがある。

 

 野間社長は「(価格を)上げるものは上げる、下げるものは下げる。そのバランスを考えながらやっていきたい」と方向性を述べた。

【成相裕幸】