井上靖さんのご親戚に、湯ヶ島を案内していただいたことがある。『しろばんば』に熱中した当時小学5年生の息子。読書習慣のない彼が、これを機に本好きになればと旅を計画した◆修善寺に前泊し、翌朝バスで湯ヶ島へ。物語世界そのままの「上の家」に感動し、大喜びで写真撮影をしていたら、お声がけいただいたのだ。「ここは靖と祖母が暮らした土蔵跡」「これは『あすなろ物語』の木なんですよ」と。作品を深く体感する貴重な機会となった。おぬいと洪作の銅像もある湯ヶ島小学校跡や「おめざの黒飴」が味わえる黒玉テラス、長泉町の井上靖文学館も訪れた◆旅が功を奏したのか『夏草冬濤』『北の海』『あすなろ物語』『わが母の記』と息子は読了。しかし『敦煌』で頓挫した。彼の嗜好は井上靖さんの自伝要素に限定するらしい。「おぬいの故郷、下田にも行きたいね」旅の帰りに立てたその計画を、いつか叶えたいと思っている。【井上真智子】
