学生の頃からスティーヴン・キングが好きだ。「神は細部に宿る」の言葉そのままに、登場人物のさり気ない仕草や舞台となる町を徹底的に書き込み、読み手を物語世界に引き込む。その緻密な表現力に長く魅せられてきた◆キングは超常現象や日常に潜む恐怖を描き、ホラーの帝王と呼ばれている。しかし一方で悲しみや絶望があるからこそ、限りある人生は尊いと謳う作家でもある。奥底には生への肯定があり、そこがたまらなく好きだ◆最新刊『チャックの数奇な人生』(文藝春秋)は、公開中の映画「サンキュー、チャック」の原作。かけがえのない人生、喪失の哀しみが心に沁みてくる「切ないキング」が満喫できる。そして今月下旬に刊行される『もし血が流れれば イフ・イット・ブリーズ』(文藝春秋)は打って変わって「とびきり怖いキング」だと言う。まさに変幻自在の玉手箱。まだまだ追いかけていきたい。【尾川健】
