株式会社トーハンは、長年海外事業を展開してきたが、2024年10月に版権ビジネスのための管理システムTORAS(トーラス=TOHAN RIGHTS AGENCY SYSTEM)をリリースするなど取り組みを強化。海外ブックフェアへの積極的な出展や、現物の輸出、企画のサポートなど、出版社に対する多岐にわたるサービスを提供している。
「TORAS」で業務を確実・スピーディーに
TORASは、版権取引に関する過去の契約や現在進行中の契約など、すべての契約の状況や販売実績を集約し、一元的に管理できるようにしたWebのプラットフォームだ。
システムにログインすれば、出版社はいつでも自社の契約状況を閲覧することができ、またトーハン側ではすべての取引先の契約状況が一括で確認できる。互いに、取引の情報を探す、調査するといった手間が省けるなどのメリットがある。
それまで、版権の仲介ビジネスにおける契約の管理は非常に煩雑となっていた。とくに20年頃のコロナ禍以降、海外市場で日本コミックの人気が爆発的な高まりをみせるとともに取引がそれ以前の3倍以上に急増、業務のキャパシティが追いつかない状況が発生したという。これは、各契約のステータスの情報や、それに紐づくデータがバラバラな場所で管理されていたためで、状況の確認に手間がかかり、レスポンスに影響を及ぼす状況となっていた。

TORASが提供する機能

出版社の海外展開をトータルサポート
そこで、各契約の状況を統一フォーマットによって標準化し、契約管理・業務進行管理を一元的にシステム化、国内、海外それぞれの出版社の業務効率を向上させることを目的に生まれたのがTORASだ。
一週間の作業が数時間に
海外の出版社の場合はとくに契約にいたるまでのスピードが重視されるが、これまでのメールベースでの対応では複数の案件が並行したり、担当者が代わるなどのタイミングで遅延が発生するケースが多かった。これがTORASでは各案件の一覧表示と、案件ごとにメッセージ履歴を閲覧することで対応が可能となる。
ひとつの例として、契約状況を紙やデータなどで個別管理していたこれまでは、契約期間満了に伴う終了および延長の手続きにおいて、取引先ごとに状況を調査するのに数日から一週間ほどかかることも珍しくなかったという。
該当する契約がそれぞれ同じフォーマットで管理できていないケースも多く、一から遡って契約内容や期間を調べる必要が生じ、それが数千契約に及ぶ場合もあったためだ。
こういった確認作業も、TORASではまとめてデータをダウンロードして内容をチェックする形に変わり、早ければ数時間程度で対応することが可能となっている。
また、TORASでは契約期間満了の銘柄をリストアップできる仕組みもあり、取り逃しなく処理ができるのも大きなメリットだ。
国内出版社からは、「自社の管理だけでは追いきれない部分や見落としがあり、TORASで一括して確認できるようになったのはありがたい」、「長年版権業務を担っていた担当者が変わり、過去の状況を社内で把握できなくなっていたが、TORASで管理するようにしてすぐに確認できた」、といった声が寄せられているという。
中堅・小規模出版社から高い関心
TORASはサービスの提供開始から約1年が経過。利用社数は25年10月時点で国内出版社168社、海外出版社80社と拡大中だ。同社では「今後は海外の取引先を増やすことが課題」とし、海外から同社を通して日本の出版社へのオファーがあれば、「まずTORASからスタート」を起点としている。
これまで海外版権ビジネスというと大手の出版社が中心で、中堅以下の出版社では海外版権業務を専門の担当者ではなく編集者や総務部門が兼任するケースも多い。しかし、中堅、小規模出版社から「TORASのような仕組みで管理できるのであれば、国外の版権ビジネスにチャレンジしたい」という声も聞かれるなど、関心が高まっているという。

取材に応えた海外事業本部の五十嵐正孝部長(右)と丸山大介マネジャー
そして、同社の業務でも見える化により確認のスピードや精度が上がったのはもちろん、例えばエリアごとの契約の状況が可視化されたことによって戦略の立案や、どのエリアで今、何をしなければいけないのか、というマネジメントレベルでも役立っていることを実感しているという。
出版社側では自社の契約管理が楽にできる、トーハンからは全体をみたうえで契約情報の分析によって、出版社に向けて地域ごとの市場性といったレポートを作成、提案できるなど、TORASの活用方法は広がりを見せている。
各国ブックフェアに積極出展
同社では版権販売先となる主要エリアをカバーするため、海外ブックフェアへの出展も積極的に展開している。とくに中小出版社からのニーズとして、自ら現地への出張は難しいが、海外の出版社にアピールしたいという商品を出版社から預かり、海外のブックフェアにブースを構えて紹介するなど、海外進出に向けたサポートに取り組んでいる。
北京国際図書展覧会、台北国際図書展では例年、ジャパンエリアを運営、フランクフルトブックフェアでは、自社ブース出展に加え、エージェントセンターでも商談するなど2段構えで大きくアピールしている。

北京国際ブックフェア2025(BIBF)
そのほか、フランスのジャパンエキスポや、イタリアのボローニャ国際児童書展、ソウル国際ブックフェアなどへも出展し、商談を行っている。
今年は、アメリカのロサンゼルスで毎年開催されているアニメエキスポにも初出展し、「日本のBL」をテーマにジャンルの魅力をプロモーションし、認知度の向上と現地ニーズの実態調査を実施した。今後は、こうした海外マーケットの開拓にチャレンジする動きも拡大していく方針だ。
海外市場における日本のコンテンツの可能性について、同社は、欧州ではコミックを広く展開できているが、近年では文字ものの人気も高まっており、今まで欧州展開ができていない出版社にもチャンスが広がっていると分析する。
また、アジアのなかで中国は規制が多いため、コミック等の展開は難しい面もあるが、 潜在的な市場規模は巨大との声は多い。
アメリカでは紙の出版物が好まれるケースが多く、電子書籍が占める比率は少ないのが現状だ。加えて、コレクション需要が高いため、豪華版など付加価値のある商材の展開にも期待がもてると判断している。
和書・完本輸出もサポート
同社では版権仲介にとどまることなく、和書、そして完本の輸出といったフィジカルな出版物の海外展開にもノウハウを有している。
現在、輸出先は200以上に及び、リアル書店(日系では紀伊國屋書店やアニメイトなど)やEC書店、現地ディストリビュータなど多様なチャネルと取引しており、北米、欧州、アジアなど幅広いエリアをカバーする。
現在の取り扱いは和書(日本語のままの原書)がメインであり、商材としては世界的に人気の高いコミックや関連のイラスト集が中心となっているが、最近は小説や実用書など比較的日本語表記の多い書籍も、海外からの注文が増えているという。
あまり実態が知られていないが、和書はかなりの量が輸出されている。それが「完本」(国内で作った翻訳版)の各国語版となって輸出されれば、和書の比ではないほどマーケットは広がるとも予測している。「完本」であれば、自分たちの納得のいく内容の翻訳、作り方ができ、また自社のタイミングで重版できるといったメリットもある。
今後に向けて、海外に対してライツを売るだけではなく、現地の流通まで含め自社でハンドリングしたいという声も複数の出版社から聞かれ、同社では版権を売る以外の展開の仕方に関心が高まっていると分析。同社でも、版権を売るノウハウや、現在輸出しているフィジカルな実績を生かし、出版社の企画の段階から参画することが増えているという。
同社では、ライセンスを売るためのエージェントとして活動ができるうえに、もともと和書の流通を手掛けており、「完本」もその延長として捉えている。各出版社それぞれの事情やニーズに合わせてトータル的に海外展開のサポートが可能だ。
現地ニーズ・トレンドを出版社に提供
昨今、同社では、これまでに蓄積してきた海外マーケットのニーズやトレンドを出版社にフィードバックし、海外向け商材の開発サポートにも積極的に取り組んでいる。
たとえば、ムックや雑誌の増刊・別冊など、特集の企画段階で「韓国でこの特定のIPが人気」、「中国ではこのIPが人気となっている」といった情報を提供して開発した商品は、軒並み各地域で数千部規模の受注につながっているという。
日本の出版社における国内の雑誌流通は厳しい状況が続いているが、海外向けのニーズを意識して商品を作ることで、流通量を増やし、全体の原価を下げる効果があるとの期待も高まる。
今後も、蓄積してきた現地のニーズやトレンド、ノウハウをもとに、各出版社のタイトルを最適な形で海外に流通させるためのサポートを行うなど、さらなる海外ビジネスの拡大を目指している。
株式会社トーハン海外事業本部
所在地:〒162-8710 東京都新宿区東五軒町6-24
問い合わせ先はこちら
