【本屋月評】「~さんと他252人があなたのツイートをリツイートしました」(伊野尾書店・伊野尾宏之)

2022年4月28日

 スタッフのFさんはホラー好きの人だった。映画、小説、コミック、“ホラー”に関係するものはだいたいチェックする。


 あるとき、Fさんと話してるとホラーやSFによくある「身近な生き物が巨大化、あるいは狂暴化して人間を襲う」ストーリーではその襲う生物の種類が実に多いことを教えられた。


 Fさんが目をキラキラさせて言う。

 

「サメはまず基本ですね。それから熊も基本です。吉村昭の『羆嵐』、あれやばいです。植物が狂暴化する『トリフィド時代』ってのもありますし、あとは…」


 永遠に話しそうなFさんを遮り、「そういう小説集めてフェアをやってみようか」という話になった。


 そんなきっかけから選書をし、集まった本を並べるフェアを始めた。タイトルは「人が何か大変なものに襲われる小説フェア」。


 写真を撮ってTwitterに投稿したら、リツイートされたことを知らせる通知がずーっと鳴っている。リツイートの数が1000を超え、「面白いですね!」「なにこれ素敵!」「これいい!」というようなコメントが無数についた。


 Twitterにはちょこちょこ店頭の写真を載せていたが、フェアの告知でここまで反響が出たのは初めてだ。「うわすごいな~、これ明日から結構反響来るんじゃないかな…少し追加しよう」と考えていた。


 翌日、翌々日。通常業務をしながらフッと気づく。


 あれ? 例のフェアからあまり売れてなくない?


 投稿から数日たっても、散発的にリツイートの通知は届くし、コメントも追加されていく。にもかかわらず、商品はそんな売れていない。


 もちろんまったく売れてないわけでなく、ポツポツとは売れていくのだがSNSの反響を考えると「こんなもの…?」という肩透かしの気持ちになってしまう。


 通常のフェアより期間を半月伸ばしてみたが、消化率でいえば3割いったかいかないか程度で、あまりパッとしないまま撤収することになった。


 フェアは自店オリジナルの企画を考えることもあるが、出版社主導の文庫フェアなども定期的に行っている。三笠書房の知的生き方文庫というビジネス、自己啓発、雑学の交じった文庫フェアがある。Twitterに投稿してもほとんど反響はない。ただし、展開すれば毎回必ずよく売れていく。


 そういうことを繰り返した結果、「SNSで反響があるものがそのまますべて売れるわけではない」という結論を得た。


 今の時代、SNSはやらないよりやった方がいい。宣伝しなくても売れるのに越したことはないが、「知るきっかけ」としては今や一番のメディアだ。そこでひっかかればたくさんの人がほめてくれる。ただし、お金を落とす人はその中の一部しかない。


 Twitterでは今日も何かが「素敵ですね!」とバズってる。それがどれくらいお金を落とされてるかは不明なまま、私も「いいね」ボタンを押す。

 

 

バックナンバー:本屋月評(伊野尾宏之
▼第1回(1月26日掲載)書店員になったきっかけ
▼第2回(3月3日掲載)店頭の音
▼第3回(4月1日掲載)既読にならないライン
▼第4回(5月28日掲載)「~さんと他252人があなたのツイートをリツイートしました」

 

 

伊野尾 宏之(いのお・ひろゆき)

 1974年東京都生まれ。新宿区と中野区の境にある昭和の風情漂う街・中井にある本屋「伊野尾書店」店長。趣味はプロレス(DDT、全日本プロレス)観戦とプロ野球(千葉ロッテマリーンズ)観戦。ブログ「伊野尾書店Webかわら版」を時々更新中。

 

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