【本屋月評】本の魅力を照らす道具(NUMABOOKS・内沼晋太郎)

2022年2月3日

 こんな商品が欲しい。けれど売っていない。なぜ誰も作らないのか。というアイデアを思いついたときには、自分の手前に1万人は、すでに思いついた人がいるはずだと思っている。そのうちの1%の100人が実際に商品化に向けて動き出したとしても、実際に商品として広く流通するには数えきれない壁があり、これまで100人が越えられなかったから、いま私たちはその商品を購入することができない。

 

 「BIBLIOPHILIC」という読書用品ブランドのディレクターをつとめてもう10年になる。昨年には10周年を記念した展示を開催し、今年2月にDU BOOKSからメモリアルブックも出版される。「本のある生活のための道具」をコンセプトに、ブックカバーを主力商品としながら、読書を記録するノートから本棚を掃除するためのブラシまで、あらゆる商品を企画・開発し、累計SKU数は800アイテムを超える。

 

 101人目になることは誰にでもできるが、その壁を越える最初の1人になれるかどうかは難しい。それでも私たちは、本を読む人が欲しいものは何かを考え、商品化にチャレンジし続けてきた。そんな中で、最もよく立ちはだかる壁は生産ロットだ。そもそも1万個以上でないと作ってもらえない、売れそうな価格にするには10万個作らなければ採算が合わない、といった壁である。

 

 「BIBLIOPHILIC」の取扱店は累計で300店くらい、現在コンスタントに発注を受けるのは150店くらいで、大多数が書店だ。一部を除きほとんどの商品の掛率は6掛で、原則は買切だが、商品の返品入れ替えなどには柔軟に対応している。書店で雑貨を扱う場合に最初に躓くのはディスプレイだが、初回導入時は必ず担当者が陳列方法をアドバイスし、ほとんどの場合は遠方でも陳列に赴く。書店にとって最も適した雑貨ブランドでありたいという思いから、徐々にそのような営業に力を入れるようになった。

 

 取り扱い書店を増やすことができれば、1万個、10万個といった生産数にもチャレンジできる。そこからまだ見ぬ読書用品を生み出せるかもしれない、その商品が新たな角度から本の魅力を照らし、読者を増やすかもしれないというのが、10年を経てもなお自分が関わり続けるモチベーションだ。

 

 そもそも初めて知った、あるいは以前に扱ったけれどうまく売れなかった、という書店の方は、ぜひともこれを機に取り扱いを検討していただきたい。初回から宣伝めいた記事になってしまったけれど、10周年記念本との併売も効果的だと思います。

 

2022年2月18日発売予定(四六版/並製/272ページ)

 

バックナンバー:本屋月評(内沼晋太郎)
第1回(2月3日掲載)本の魅力を照らす道具
▼第2回(2月24日掲載)未来とは始める人である
▼第3回(3月25日掲載)日記のお祭りを開催します
▼第4回(4月22日掲載)こんにちは、freee出版です

 

内沼 晋太郎(うちぬま・しんたろう)

 1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、株式会社バリューブックス取締役、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、下北沢のまちづくり会社である株式会社散歩社の取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。

 

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