【本屋月評】こんにちは、freee出版です(NUMABOOKS・内沼晋太郎)

2022年4月22日

 freeeという会社は、いわゆる中小企業や個人事業主の間では、かなり知られた存在だ。クラウド会計ソフトを中心に、経営のためのプラットフォームを開発・提供している。ミッションは「スモールビジネスを、世界の主役に」。本稿を読んでいる方にもきっと、たくさんのユーザーがいるはずだ。

 

 けれど、そのfreeeが出版レーベルをつくったことは、まだ案外知られていないかもしれない。その名もfreee出版。だれもが自由に経営できる環境をつくる、スモールビジネスのための出版レーベルだ。自分は外部のプロデューサーとしてこのfreee出版に、立ち上げから現在まで携わっている。

 

『ウルトラニッチ』(freee出版)

 

 第一弾となった書籍は、『1キロ100万円の塩をつくる』(ポプラ新書)、『農業新時代』(文春新書)などで知られる稀人ハンター・川内イオ氏の『ウルトラニッチ』。小さな発見や疑問、違和感を起点に、「ウルトラニッチ」なアプローチで新たな市場を拓いた10人へのインタビュー集である。次に発刊されたのは雑誌『起業時代』。起業を検討している人にとって必要な段取りを網羅的に解説した雑誌だ。テレビCMも打っていたので、目にした方も多いかもしれない。

 

『倒産した時の話をしようか』(freee出版)

 

 そしてこのたび、第二段となる書籍が発売された。タイトルは『倒産した時の話をしようか』。起業を考える人にとって、普段なかなか語られないがゆえに、もっとも未知の恐怖である倒産。それを等身大で理解するために、倒産を経験した社長の人生の話をまとめた本だ。著者の関根諒介氏はfreeeのいち社員であると同時に、大学院で倒産社長をはじめとした挫折体験者の精神的回復・ウェルビーイングを促すナラティヴ・デザインについて研究を行っている。

 

 二冊の書籍はどちらも、長田年伸氏にブックデザインを依頼し、山田和寛氏によるオリジナルの本文仮名書体を採用するなど、細かな仕様にもこだわっている。発売は日販IPSが担い、各取次経由で全国の書店に流通するほか、独立系書店からの直取引にも柔軟に対応している。

 

 個性的なミッションがきちんと立っている事業会社が、事業の直接的な宣伝やマーケティングのためではなく、そのミッションをそのまま編集の軸として独立した出版事業を行っていくことは、実はとても理にかなっていると考えている。これからも面白い出版社が増えていきそうだと、ひそかに期待しているところだ。まずはぜひfreee出版の本を、手に取って見ていただければうれしい。

 

バックナンバー:本屋月評(内沼晋太郎)
第1回(2月3日掲載)本の魅力を照らす道具
▼第2回(2月24日掲載)未来とは始める人である
▼第3回(3月25日掲載)日記のお祭りを開催します
▼第4回(4月22日掲載)こんにちは、freee出版です

 

 

内沼 晋太郎(うちぬま・しんたろう)

 1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、株式会社バリューブックス取締役、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、下北沢のまちづくり会社である株式会社散歩社の取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。

 

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