サイボウズ・大槻幸夫氏に聞く、IT企業が見た 出版の可能性

2019年11月26日

コーポレートブランディング部長・大槻幸夫氏

 11月7日、法人向けIT企業のサイボウズ株式会社が、新レーベル「サイボウズ式ブックス」として、第一弾の書籍『最軽量のマネジメント』を刊行した。同書はサイボウズにおける人事制度変革を統括してきた副社長・山田理氏による、同社の企業理念をまとめたビジネス書だ。

 

 「サイボウズ式ブックス」は、兵庫県明石市の出版社・ライツ社との提携のもと、「取次50%・書店35%」の掛け率など、そのビジネスモデルで注目を浴びた。最先端を行くIT企業であるサイボウズが、なぜいま出版事業に乗り出したのか。同レーベルのプロジェクトリーダーで、同社・コーポレートブランディング部長の大槻幸夫氏に話を聞いた。

 

アンケート結果で書籍が1位

 

最軽量のマネジメント(サイボウズ式ブックス)

 出版事業参入のきっかけについて大槻氏は、「弊社の中途採用者にアンケートをとったところ、当社代表の青野慶久による著作を読んだことが、転職を決めた理由の1位だった。IT企業への転職を書籍が決めているという現実に、出版の可能性を感じた」と話す。

 

 その一方で、月間20万PVを誇るオウンド・メディア「サイボウズ式」を7年間運営し、その経験の中で培われた「読まれる記事」におけるノウハウを蓄積。その経験・ノウハウから、自社宣伝に終始する従来型の企業出版ではなく、これまで同社が提供してきたサービスやコンテンツと同様、同社が掲げる「チームワークあふれる社会をつくる」という企業理念を、より多くの人に普及し、実現するため、出版事業に参入したという。

 

「企業理念の実現が目的」、“編集力”は特異なスキル

 

 大槻氏は「企業出版は本を出すことがゴールだが、当社は企業理念の実現が目的だ。単なる自社宣伝本ではなく、企業理念を下地にした面白いストーリーを提供しなければ、読者は読んでくれもしないし、理念の浸透もない」としたうえで、「そのストーリーを1冊の書籍としてまとめる出版社の〝編集力〟は、他業界にはない特異なスキル」と話す。ライツ社との提携もまた、その編集力・企画力を評価してのことだ。

 

 一方で、大槻氏は「出版社がこのビジネススキームに第一線の編集者を配して、本格的に取り組まなければ、企業自らが〝編集力〟を持つ人材を抱え、育ててしまう可能性も大いにある」と指摘する。

 

「サイボウズ式ブックス」の掛け率「取次50%・書店35%」

 

取次50%、書店35%の本意を説明する大槻氏

 また「サイボウズ式ブックス」の掛け率「取次50%・書店35%」という条件も、大槻氏からライツ社に「何か書店に還元できる施策はないか」と持ちかけたことから生まれたという。

 

 「もともと本屋が好きということもあり、書店を何とか残したいという思いがあった。これをきっかけに、掛け率を始め、業界全体でひとつのムーブメントとなり、出版業界や書店復興の一助となれば」としたうえで、「結果、書店がこのレーベルを応援してくれ、全国の書店で陳列してくれれば、それはとても魅力的なことで、一般的な企業広告に比べても、大きな意味がある」と、同レーベルの書籍が全国の書店店頭に並ぶメリットについても言及する。

 

 今後、ビジネス書に限らず、同社の「チームワークあふれる社会をつくる」という理念を浸透させる内容であれば、自社の書籍のみならず、サイボウズ以外の著者企画もプロデュースし、さらには児童書や実用書など、ジャンルを問わず出版する意向だ。