【出版時評】2026年7月7日付

2026年7月7日

元出版社社長が書店店頭で見たもの

 

 出版社で書店営業、そして社長まで務めたのちに実家の小規模書店を継いだ矢﨑謙三氏によるセミナー「店頭に立って見える書店経営の実際と可能性」を開催した。「出版社時代は書店のことを何もわかっていなかった」と話す矢﨑氏だが、出版社側の考え方や事情を知っているがゆえに、見えていることも多い。


 矢﨑氏が営む矢崎書店は、東京の板橋区にある仲宿商店街で70年以上にわたって営業を続ける30坪ほどの「街の本屋」だ。矢崎氏は新卒で主婦の友社に入り、書店営業、社長などを経て、50代で3代目として経営を引き継いだ。


 顧客優先の接客や、文庫の著者別陳列、パズル誌の陳列場所移動など、営業マンらしい顧客視線で店を手直しし、「版元営業時代に嫌だったことの逆張り」と気遣いも。昨年春に近隣の競合店が閉店したこともあって、売上は前年を超え続けているという。


 そんな矢﨑氏が、書店店頭に立って気づいたこととは、まず「本ってこんなに売れる」だった。出版社時代は雑誌不振などマイナスなイメージが強かったが、実際に店頭に立つと、雑誌を求める人、立ち読み(試し読み)する人、店員と会話するお客さんなど、書店が求められていることを実感するという。


 一方で、注文品の店着の遅さ、煩雑な定期改正や発注業務など、業界として販売現場へのケアが足りていないことも感じている。【星野渉】