集英社インターナショナル 各界の読み手が選ぶ「コロナブルーを乗り越える本」

2020年9月8日

書店で無料配布した「コロナブルーを乗り越える本」

 集英社インターナショナルは4月10日から緊急特別ネット企画「コロナブルーを乗り越える本」をスタートした。同企画では各界の読み手が、コロナ禍によって疲弊した人々の心を癒やしたり、勇気づけたりする本を選び、特別サイトで書影や書評を公開していった。ネット上で好評だったことを受けて、6月10日にはネット公開した書評を小冊子にまとめ、書店店頭での無料配布が行われた。企画に込められた想いや立ち上げのきっかけについて、発案者の岩瀬朗取締役と新書・kotoba編集部の近藤邦雄新書編集長から話を聞いた。

 

【鷲尾昴】


 

コンテンツの「力」で人々に癒やしと勇気を

左から岩瀬朗取締役、近藤邦雄新書編集長

 

 企画が持ち上がったのは緊急事態宣言が発令される前の3月末。そのころ、東京では小池百合子都知事が外出自粛を呼びかけ、臨時休業する書店が出始めていた。

 

 岩瀬取締役は「コロナ禍という未曾有の危機に直面し、どうしていいか分からない人々が多かった。そうした状況の中で、世のために私たちだからこそできる企画がないかと考えていた」と当時を振り返る。

 

 そのうえで「本に宿るコンテンツの『力』は、普段の仕事でも原動力となっている。本は人々の心をさまざまな形で支え、癒やし、元気づけ、前に進む勇気を与えてくれる。今こそ、人々にこの『力』の価値を頼りにしてもらおうと立ち上げたのが、『コロナブルーを乗り越える本』だった」と語った。

 

企画発案から2週間で特設サイトをオープン

 

 企画は2週間足らずで本格的に動き出し、4月10日には特設サイトがオープンした。最初に岩瀬取締役から企画の素案を聞かされた近藤新書編集長は、「企画段階で全ての内容が決まっていたわけではない。新型コロナウイルスの影響は今も続いているが、企画当初はどこまで広がるか不透明だった。コロナ禍が短期間で収束してくれていれば、ウェブ上での展開だけで終えていたかもしれない」と話す。

 

 4月16日になると緊急事態宣言が全国に拡大され、書店の臨時休業が相次いだ。動き出しながら企画の細部を決めていき、全社を挙げて取り組んでいった。

 

選者それぞれの個性 色濃く表れた55冊

 

 作家や学者、落語家など各界の読み手が選者となって1~3冊の「コロナブルーを乗り越える本」をセレクトし、原稿が到着した順に特設サイトでタイトルと書評が公開されていった。

 

 近藤新書編集長は「編集部を中心に著者の先生にお願いし、選書は全て自由にとお任した。本のジャンルや出版社も自由、選ばれた中には絶版本もあり、選者の個性が表れている」と内容を紹介。

 

 35人の選者が計55冊を選んだが、その中で被っている本は1冊もないという。「あとから原稿をいただいた選者は、既にどの本が選ばれたか知っていたかもしれないが、それでも1冊も被らなかったのは驚きだった」と話す。

 

 選ばれた本の出版社は多種多様で、小説家の夢枕獏氏は『美を見て死ね』(エイアンドエフ)、『完本 妖星伝』全3巻(祥伝社)をセレクトした。

 

 ジャンルも幅広く、特に服飾史家の中野香織氏は『コレラ時代の愛』(新潮社)のほかに、350年以上も読み継がれる釣りの本『完訳 釣魚大全Ⅰ』(平凡社ライブラリー)や人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)をおすすめ本として取り上げた。

 

書評をまとめた小冊子リアル書店で無料配布

「くまざわ書店(ACADEMIA港北店)」

 

 選者がSNSなどで拡散し、好評を博したことから、内容を小冊子化して書店店頭での展開も行われた。6月10日から希望書店を募り、全国の書店40店以上に1200冊を送付し、店頭で無料配布を実施。なお、書店の負担とならないように送料は全て集英社インターナショナルが負担した。

 

 岩瀬取締役は「書店を訪れたお客さんの要望に答えられる取り組みが求められていた。感染症の関連書は多く出版されていたと思うが、『コロナ禍で不安になった心を癒やしてくれる本』を用意するのはハードルが高い。今回の企画が書店の助けになっていれば幸いだ」と趣旨を述べた。

 

 続けて、近藤新書編集長は「流通が難しい時期で本が届かず棚が空くことがあったそうだ。今回の無料小冊子で棚を埋めることができたと、ある書店に喜んでいただいた」とエピソードを紹介。書店からの反応は良好で、希望する書店に10~30冊冊を送り、再注文する店舗もあったという。

 

 都内の「MARUZEN&ジュンク堂書店(渋谷店)」は、同社の書籍と並べて無料小冊子を配置。横浜市の「くまざわ書店(ACADEMIA港北店)」では、無料小冊子にちなんだフェアも行われた。

 

 また、三重県立伊勢高等学校や長崎大学の図書館では、特別サイト「コロナブルーを乗り越える本」を使って学生に読書を呼びかける取り組みも行われ、それをネットで知った岩瀬取締役と近藤新書編集長は小冊子を送付した。

 

 最後に岩瀬取締役は企画の第2弾について、「コロナブルーを乗り越えるために第2弾が求められる事態となれば、第2弾も考えられる。しかし、コロナ禍が一刻も早く収束してほしいのが率直なところだ。コロナブルーの収束を願っている」と語った。

 

特設サイトhttps://www.shueisha-int.co.jp/coronablue