【行雲流水】文化通信2019年10月21日付

2019年10月21日

某月某日 

 コレド室町テラスにオープンした「誠品生活日本橋」をぐるり回る。書籍や文具のほかに、台湾ブランドを中心にセレクト物販・食物販で構成されている。売り場に占める書籍の比率はそう高くないが、日台双方の選書などからは、誠品の創業者、故・呉清友氏の掲げる企業理念、「『誠品』とはよりよい社会の追求と実現」を映す、店が売りたい、読んでもらいたいという意思が感じとれる。

 

 誠品書店をモデルにしたという蔦屋書店から始まった書籍とカフェ、文具を超える雑貨との融合は新風を吹き込んだ。京都・大垣書店の本店では、書籍売り場の周囲に飲食店や食品スーパーをテナントとして配したが、来店客の飲食系支出と物販系支出の棲み分けを狙ったか。一方、誠品生活では、投資効率の低い飲食サービス系の比率を抑えたのか、物販が主体で、相乗効果による利益の最大化を図る。工夫を凝らした両店の帰趨が興味深い。

 

某月某日

 食品関係の経営者勉強会で、外苑前のベトナム料理とワインの店「AnDi」へ。同店の大越基裕オーナーソムリエに世界的なワインのトレンドを伺い、その後食事を楽しむ。

 

 要点①世界的に、素材を尊重し、香りを大切にする軽めの料理が主流になっているので、ライトからミディアム・ボディ、またミネラル感のあるものが好まれている。②近年、注目度が高まっているのが「オレンジ・ワイン」。オレンジを使っているわけではなく、白ワイン用のブドウで赤ワインと同じ製法を用いたもの。もともとワイン発祥の地「ジョージア」での伝統的製法だが、最近は北イタリア、スロベニア、さらにアメリカ、フランスなどにもその作り方が広がっている。③もうひとつ、ブドウを収穫した後に梗(房の実をつなげている部分)を取り除かず果汁と一緒に発酵を行ったwhole bunch style(全房発酵)と呼ばれる、ロマネ・コンティなどに用いられる製法で作られるワインも今のトレンド。軽やかでフローラルな仕上がり。

 

 ふむふむなるほど。と、ようやく美しく繊細にアレンジされたベトナム料理と注目ワインのマリアージュを楽しむ。

 

某月某日

 台風一過で一気に秋の深まりを感じる肌寒い雨模様の午後に、親戚宅でバーベキュー。

 

 主役は秋刀魚と決めていたが、海水温が下がらず良いモノが手に入らない。10年先輩で家族ぐるみで親しくさせていただいている「味の浜藤」の森口一会長に相談のメールをしたら、北海道の沖合で上がった特大の秋刀魚とホタテ、そして車海老をご手配下さる。脇役?に頼んでいた、三重県は愛農高校の「愛農ナチュラルポーク」は物流トラブルでキャンセルに。代わりに代官山の「ハイライフポークテーブル」で、カナダ産の三元豚「ハイライフポーク」を分けてもらう。

 

 まずはたっぷり塩を振って焼いた車エビを殻ごとバリバリと頬張り、ビール。香ばしい。ホタテも良い海域で育ったのか、旨味が濃く柔らかでジューシー。主役の秋刀魚は、たっぷり脂が乗っていて、じゅうじゅうと音を立てて煙を噴き上げる。無胃魚ゆえ新鮮なハラワタが堪能できる。各自持ち寄りの日本酒が進むこと進むこと。豚塊肉は、焼いては休ませ焼いては休ませ、切り分けた断面は見事なピンクだった…はずだが、記憶が無い。

 

文化通信社 社長 山口