書店読売中公会 「螺旋プロジェクト」文庫化 第二弾も発表 『三千円の使いかた』100万部へプロジェクト始動

2022年11月22日

 

原田ひ香著『三千円の使いかた』

 

 中央公論新社の特約書店会「書店読売中公会」は11月9日、今年末から来年にかけて展開する新企画発表会を東京・千代田区の如水会館で開き、全国の書店や販売会社などから約90人が参加した。2023年に創刊50周年を迎える中公文庫では、伊坂幸太郎さんら人気作家による文芸競作企画「螺旋プロジェクト」の文庫化とともに、来年から第二弾が始動することを発表した。また、現在71万部に達している原田ひ香著『三千円の使いかた』のテレビドラマが来年1月からスタートすることから、22年の文庫売り上げランキング1位獲得や、来年3月の100万部突破を目指して、宣伝を強化していくことなどが紹介された。

 

 

伊坂幸太郎著『シーソーモンスター』

 

 

23年に中公文庫が創刊50周年

 

 3年ぶりにリアルで開催された企画発表会では、各ジャンルのおすすめについて、動画を使って分かりやすく説明した。注目の新刊では、読売新聞での連載が終了した川上未映子さんの「黄色い家」が来年2月に単行本化する。川上さんが動画で「金、家、犯罪、カーニバル」と、作品の読みどころを参加した書店員に向けて語った。

 

 

中公新書60周年 「家康」関連フェアも

 

 

 今年11月に創刊60周年を迎えた中公新書は、田中正敏編集長が創刊からこれまでの歩みをインタビュー形式で紹介。「事実の重視」と「読みやすさの重視」を大きな柱に「支持いただける新書づくりを目指している」ことを語った。中公新書は創刊以降「教養新書」の路線を守りながら、近年でも16年刊行の呉座勇一著『応仁の乱』が48万部、17年刊行の磯田道史著『日本史の内幕』が40万部に達するなど、話題作も多く出している。

 

 創刊60周年記念のおすすめとして、10月20日発売の本多隆成著『徳川家康の決断』、11月21日発売の磯田道史著『日本史を暴く』の2冊を、紹介した。

 

 11月初旬からは「創刊60周年記念フェア」もスタートしている。1962年の創刊時から2021年までの各年を代表する新書を1作品ずつ選んで展開。12月初旬からは「中公新書で読む家康とその時代フェア」も始まる。来年1月からNHK大河ドラマ『どうする家康』がスタート。「歴史に強い中公新書のラインナップの中から、家康関連の書籍を集めたフェア」を行う。

 

 

浅田次郎『流人道中記』来年2月に文庫化

 

 

 中公文庫も来年が創刊50周年の節目となる。文芸・エンターテインメント、学術・教養、ノンフィクション、エッセイ、コミックまで「幅広いラインナップの中公文庫」を、50周年を機にあらためてPRする。

 

 具体的には、来年1月に野中郁次郎著『知的機動力の本質』を刊行。2月から50周年フェア第一弾として「この本が好きだから全社員アンケートで選んだ中公文庫の№1フェア」を実施する。同じく2月には浅田次郎著『流人道中記』(上下巻)を初版15万部で文庫化。読売新聞連載時から話題となった作品で、単行本も重版が続いた人気作だ。

 

 さらに、5月には21年に本屋大賞を受賞した町田そのこ著『52ヘルツのクジラたち』を文庫化。10月からは50周年フェアの第二弾も予定している。

 

 

第二弾は凪良ゆう、町田そのこら参加

 

 

 そして、力を入れる「螺旋プロジェクト」の新たな動きについても紹介した。同プロジェクトは伊坂幸太郎さん、朝井リョウさんら人気の7人と1組の作家による文芸競作企画。原始から未来までの8つの時代をそれぞれの作家が担当し、共通のキャラクターなどルールに基づいて小説を執筆するという「前代未聞のプロジェクト」。19年に単行本が刊行された。

 

「螺旋プロジェクト」のロゴ

 

 これを今年10月から3カ月連続で文庫化している。10月21日発売が伊坂幸太郎著『シーソーモンスター』▽朝井リョウ著『死にがいを求めて生きているの』──の2冊、11月22日発売が大森兄弟著『ウナノハテノガタ』▽薬丸岳著『蒼色の大地』▽吉田篤弘著『天使も怪物も眠る夜』──の3冊、12月21日発売が天野純希著『もののふの国』▽乾ルカ著『コイコワレ』▽澤田瞳子著『月人壮士』──の3冊。

 

 この文庫化にあたって、TikTokの小説紹介で人気のインフルエンサー・けんご氏がアンバサダーを務めており、若年層への浸透も図っている。

 

アンバサダーにけんごさんを起用

 

 さらに、23年から「螺旋プロジェクト」の第二弾も始動することを明らかにした。前回に続いて伊坂さんが旗振り役を務め、武田綾乃さん、月村了衛さん、凪良ゆうさん、町田そのこさんら「豪華な執筆陣が現在、準備を進めている」としている。

 

 『三千円の使いかた』は、女優の葵わかなさんが主演する連続ドラマ(東海テレビ・フジテレビ系)で来年1月7日から放送される。それを控えて、年末にかけ22年の年間ベストセラーと来年3月の累計100万部を目指して、一気に売り伸ばしていくプランを説明。全国の書店にさらなる協力を求めた。

 

朝井リョウ著『死にがいを求めて生きているの』

 

 

「伝統守りながら新たな挑戦を」

 

 企画発表会の冒頭、中央公論新社の安部順一代表取締役社長があいさつ。出版社、販売会社、書店が一丸となった秋の読書推進月間や「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の話題に触れ、「中央公論新社も出版業界の一員として貢献していきたいし、読売新聞グループとしても盛り上げていきたい」との考えを示した。

 

安部代表取締役社長

 

 読売新聞東京本社と中央公論新社が11月8日に発表した「書店員が選ぶ絵本新人賞」創設についても、その趣旨などを詳しく説明。そのうえで、「中央公論新社は伝統を守りながら、新たなチャレンジをしていかなければならない。今後も良書の刊行を続けていくため、皆さんとしっかりとタッグを組んでいきたい」と呼びかけた。

 

老川代表取締役会長

 

 着席スタイルの懇親会では、読売新聞グループ本社・老川祥一代表取締役会長が乾杯の発声を務めた。中締めで、読売新聞グループ本社・山口寿一代表取締役社長が登壇。自身が理事長を務める文字・活字文化推進機構について触れながら、「小所帯でもあり、出版業界の皆様の協力が必要だと日々実感している」と要望した。

 

山口代表取締役社長

 

 また、秋の読書推進月間についても「出版業界が一丸となって取り組まれており、とても画期的なことだ。読売新聞としても、盛り上げるために、できることは何でもやろうという思いだ」と語った。最後に、「中央公論新社から提案したさまざまな新機軸は出版社、取次、書店の皆様と力を合わせて、新たなうねりを起こしていきたいと考え企画したものばかり。ご理解いただき、応援していただきたい」と力強く呼びかけた。