文化通信社 第5回「活字文化フォーラム」詳報         【パネルディスカッション】

2025年9月30日

求められる書店の形を考える~アメリカ独立系書店を参考に~

 

パネリスト
齋藤健氏(「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」幹事長/前経済産業大臣)
山口寿一氏(文字・活字文化推進機構理事長/読売新聞グループ本社社長)
大原ケイ氏(文芸エージェント)

 

司 会

南美希子氏 (アナウンサー・エッセイスト)

 

 

会場の書店経営者とも活発に意見交換

 

 

 

米書店に見る「しぶとさ」

 

 南 昨年の第4回フォーラムは、韓国の「本と社会研究所」の白源根(ベク・ウォングン)さんに韓国における書店支援について話していただいた。韓国では2002年に制定された「出版文化産業振興法」によって、地域書店経由の公共図書館蔵書購入支援や、地域書店にはクレジットカードでの書籍購入時に優待手数料率が適用されるなど国を挙げて支援している。今日、大原さんが話したアメリカの書店事情はかなりアグレッシブだった。齋藤さん、山口さんに韓国とアメリカ、そして日本との比較も踏まえて感想を。

 

齋藤健氏


 齋藤 アメリカと韓国は書店に限らずあらゆる政策で大きく違う。アメリカは、基本的に政府は介入しない。それが書店でも貫かれていると分かった。アメリカの独立系書店を「しぶとい」と表現され、「打倒アマゾンの会」なるものを自分たちで立ち上げているところがアメリカらしい。大事なことは、この地域でどういった本を、どのように売るのかを必死に考え、この店でしか出合えない本をいかに魅力的に提案していくか。店に来てもらうための工夫づくりの積み重ねが成功に近づく。それに尽きる。

 

 

山口寿一氏


 山口 政府の介入を嫌い、自分たちで頑張ろうという路線のアメリカと、法律をつくって地域の書店を支援・優遇する韓国。日本はその中間。齋藤さんが大臣のときに陣頭指揮を執られ昨春、書店振興プロジェクトチームを発足、今年1月には関係者から集約した書店活性化のための課題を公表、スピード感を持って6月に「書店活性化プラン」をまとめられた。既存の政策を省庁横断型で支援する、キャッシュレス手数料においても強制的に下げるのではなく、現時点で下がる余地がある制度の周知を図るといった日本らしい施策。

 大原さんの話を聞いて16年の本屋大賞翻訳小説部門1位の『書店主フィクリーのものがたり』(早川書房)を思い出した。島にたった一つある本屋の物語。韓国の『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)も昨年の同賞に選ばれた。両作品の主人公(店主)ともに自らの考えで、自店にふさわしい本を選んでいる。米韓の出版界への施策は対照的だが、両国の独立系書店が増えている理由がよく分かる。日本の書店も個性、特色ある店づくりが必要だと思う。

 

 

大原ケイ氏

 

ファンに甘える関係性

 

 南 アメリカの独立系書店が来店してもらうために行っている工夫は。


 大原 対面イベントはたくさん開いている。作家の人たちもそれを知っていて、チェーン店ではなく、全国のインディペンデント書店にサイン会や朗読会に積極的に出向く。各店で読み聞かせの会やブッククラブなどの集まりがあり、お客さんがどういった本を読んでいるのかをしっかり見ているし、面白い本を見つけてくれるなど、リアルの場で広める活動をしている。


 南 アメリカは各書店に根強いファンがいる。


 大原 グリーンライト・ブックストアという書店が、ブルックリンに店を作ろうと、「ペンキ塗りや本の搬入を手伝ってほしい」と呼び掛けると、たくさんの人が集まって店ができた。

 ほかの書店でもテナント契約が切れて移転を余儀なくされた際、大勢の人が本を運んでくれた。みんな地元に本屋ができることはうれしい。応援されるような店になって、ファンにはどんどん甘えていいと思う。


 南 日本から見ればうらやましい話。


 山口 欧米は巨大企業が複数の出版社を傘下に収め、書店も600以上の店舗を有するバーンズ&ノーブルのような大手チェーンが存在感を出している。一方、日本の出版社と書店は、中小の規模が多く、両者をつなぐ取次に資本が集中した歴史的経緯がある。結果、全国各地の書店に同じような本を流通させる仕組みが固定化し、店主が好む本を揃える方向に向かわなかった。

 しかし、ネット書店が台頭し、魅力を持つ書店が広がらないと書店の未来を描けなくなった。そこで、例えばトーハンが「HONYAL」のような小規模書店の開業を助ける施策を始めるなど変化が見える。経産省の活性化プランにも開業支援の項目が盛り込まれた。今はまだ特色ある独立系書店の数は少ないが、促進する動きは官民それぞれで始まってきた。

 

 

南美希子氏

 

 

 

全市町村一書店運動

 

 南 主要な16カ国のうち12カ国で本の売上が増えているという調査報告がある。日本は立ち遅れていると心配する。

 

 齋藤 心配どころか強い危機感を持っている。活性化プランとは別に書店議連でも提言を出した。全国4分の1の自治体で書店が1店もない状況を踏まえ、「一村一書店運動をやろう」という提言。市町村によって事情が異なるので、手法は多様に用意する。例えば、役所の一角のスペースを活用して本を売る、廃業危機の書店に政府が投資する、住民に応援してもらうのも良い。いろいろな可能性を探り議連で提言している。 

 経産大臣としてプロジェクトチームをつくり、書店が抱える課題を集め、カード手数料、図書館、ネット書店、万引き問題などすべてをテーブルに乗せて、何ができるかを考えた。経産省が中小企業対策としてできること、役所ができること、出版社ができること、書店自身ができることもあるかもしれない。みんなで問題を考えてアプローチしなければ書店減少を食い止めることは難しい。


 山口 ネットやSNSのせいで本を読まなくなった、アマゾンの影響で書店が減ったと思い過ぎないほうがいい。大原さんが講演で話された「闘志」「しぶとさ」「戦う姿勢」は書店に限らず、活字に関わる人すべてに必要。多様性を重視する今の時代、元来、多様である本の利点を世間にうまく表現し、特色ある書店が全国各地に広がれば書店が復活するきっかけになると思う。

 

RFID導入のインフラ整備を

 

 南 会場の書店関係者にも意見をお願いしたい。

 

 

有隣堂・松信氏


 有隣堂・松信健太郎社長 齋藤前大臣が先頭に立ってプロジェクトチームの発足、また、読売新聞社と講談社が共同提言を出すなど、書店問題に国を挙げて、業種を超えて取り組んでいただいていることにお礼を申し上げたい。

 皆さんが指摘されるように個性的な店づくりは書店間の競争領域として追求し続けなければならない。競争するために書店が最も求めていることはRFID(ICタグ)導入のインフラ整備。業界一丸となって進めていくことだが、政府、メディアにもその気運の醸成を後押ししてほしい。

 もう一点、スウェーデンでは「秋休み」としていた期間を「読書休み」と名称を変えて、書店や図書館がイベントを催し、国民が読書に興味を持ち始めたという実例がある。日本でも既存の休暇を「読書休暇」とすれば読書意欲を喚起できる。


 齋藤 「読書休暇」、日本でもできないだろうか。予算も使わずにできるので議連でも検討したい。


 山口 RFIDのインフラ整備は推進すべき。一定の公的支援が必要な領域だと考える。

 

 

くまざわ書店・熊沢氏


 くまざわ書店・熊沢真社長 海外は書店数も売上も増えているという話だが、少し違うと思う。フランスは1%程度増えているらしいが、ヨーロッパ全体的に近年の物価上昇分には追いつかず、店主らも「利益が出ない」と言っていた。日本はさらにマイナス傾向。書店が減少するのは赤字が原因。そして出版社も厳しいといった声を中規模の社から聞く。日本の出版物売上の減少傾向は20年以上続いている。これにどうブレーキをかけるのか、構造自体の改革、出版社、取次、大手書店、独立系といった垣根を超えた変化が必要。今、業界一丸となって対応しないと数年後には一層激しい本屋の減少が起こる。


 山口 日本は本の価格が他国と比べ、飛び抜けて安いことも苦しい理由の一つ。原材料、物流、人件費などが上がる中、適正価格を打ち出せていない。値上げをすると売れないのではと考えてしまう。様子を見ながら恐る恐る少しずつ上げていては、インフレの速度に追いつかない。

 変革の方向性として、書店の特色を明確にしていくことに加え、マーケットイン型と、出版界が「書店志向」を目指すことが必要。ただ、縮小傾向の中、変革を進めるのは非常に大変。そこで、緊急措置として国の支援が求められる。まずは活性化プランの中で、新規出店の環境づくり、官民の間で踏み込んだ意見交換、情報共有が活発化し、少しでも良い方向に進んでほしい。

 

 

丸善ジュンク堂書店・西川氏


 丸善ジュンク堂書店・西川仁社長 本好きの人が集まるコミュニティを作るということでは、今年、大阪でそういった場所を提供する取り組みを考えている。RFIDにおいては、業界内でサプライチェーンを最適化し、収益を書店にも確実に落とし込むことが最終目標だと聞く。当社は今期、約20店舗で導入する。出版社と報奨金の交渉も交わしながら施策に取り組んでいく。 

 アメリカの独立系書店はしぶといという話を聞き、当社は書店としての規模は大きいが、収益がしっかり出ているかの点ではまだ足らないと実感した。アメリカの書店のようにお客さんから応援されるような取り組みを進めていきたい。


 大原 連日の猛暑で私自身、涼しい家での読書が一番楽しい。「夏に読む本キャンペーン」や、家にこもって読書を促す取り組みなどいろいろ考えられると思う。

 アメリカは小さな書店でも子どもに本を自由に読ませている店が多い。本が傷むなどの懸念もあるが、20~30年後の読者を育てるという長期的視野で取り組んでいる。

 また、デジタルが当たり前の20歳前後の世代は、電子より紙の本が好きな人が多いという統計がある。本を読む時ぐらいはパソコンやスマホから離れたいという気持ち。「若者は本を読まない」「出版不況は読書離れが原因」など思い込み過ぎず、視点を変えてほしい。

 

課題は全て網羅した次は連携して実行を

 

 南 書店活性化プランが公表されたが、実効性について。


 齋藤 プランは書店特有の29の課題を挙げ、それぞれどう対応していくかを整理している。また、中小企業庁で書店経営者向けの「支援施策活用ガイド」も公開した。プランはこれで終わりではないと考えている。「読書休暇」の意見が出たように今後もブラッシュアップしていけばいい。

 アメリカも決して楽に経営しているわけではなく、大変な状況の中、独立系の人が努力して書店数が増えているという話は励みになった。政府ができることは全て羅列したので、プランを活用していただき、次は(業界の)皆さんができることを実行してほしい。官民で連携しながら進めていきたい。


 山口 「支援施策活用ガイド」は補助金や融資の案内に加えて各都道府県にある「よろず支援拠点」のことも説明している。書店主の体験談も掲載しているなど政府も一生懸命取り組んでいると感じる。

 RFIDは万引き防止以外にもデータマーケティングや在庫管理にも活用でき、ネット書店に対抗できるのではと期待が高まる。ただ、現状では出版社も書店も導入する負担能力が不足している。期間限定の公的支援を考えてはどうだろうか。


 南 蔵書数が多い図書館を有している自治体ほど要介護者の割合が少ないという研究結果が出ている。書店自身ができる努力について意見を。


 山口 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』の主人公の店主・ヨンジュが作中で「町の本屋はキュレーションが全て」という一言が出てくる。本の目利きとしてのキュレーター機能は日本の出版社、取次、書店はすでに身に付いている。ただ、今後の活性化を考えると、最大公約数的なキュレーションからはみ出すような動きが出てくると面白いかもしれない。

 

勇気と真心で個性生み出す

 

 南 最後に、書店経営者にメッセージを。
 大原 日米では事情が違うので「しぶとく」は分かりづらかったかもしれない。しかし、ABAのような団体は日本も必要だと思う。どうすれば書店に来てもらえるか、読者目線で本を読みたい欲求をどう持ってもらうかを考えるためにウィンター・インスティテュートのようにみんなで作戦会議を開く。アメリカも地道なことを積み重ねているだけ。 

 書店の原点である本を直接手渡しで売ることの大切さ、これはアマゾンにはできない。その積み重ねから読者との絆、つながりを築いていこうとアメリカの書店はしぶとく追求し続けていくだろう。


 山口 ヒュナム洞書店のヨンジュは海外の独立系書店を巡る旅に出る。旅をして辿り着いた結論は、「世界の独立系書店の店主は独自の個性を持っている」「個性を作り上げるのに必要なことは勇気と真心」ということだった。ヨンジュに倣って、「勇気と真心」をメッセージとする。


 齋藤 国でもできることはしっかり取り組んでいく。支援が必要なら相談窓口を活用できる。各書店によって店に来てもらう方法はさまざまなので、トライアンドエラーになるかもしれないが、挑戦は必要。成功事例を経産省でも公表しているので、参考にしてトライしてほしい。
 

 (撮影=久保寺誠)

 

【文化通信社 第5回「活字文化フォーラム」[基調講演]強いアメリカの独立系書店】