文化通信社は8月28日、三洋堂ホールディングス代表取締役社長・加藤和裕氏を招いたセミナーをリアルとオンラインのハイブリッドで開催した。書店業界でいち早く全店でセルフレジを導入し、顔認証による無人営業店舗の拡大も進める加藤社長が、書店の将来展望や、出版業界の在り方について語った。

セミナーを行う加藤社長
三洋堂書店では、2024年2月に本新店(愛知・豊田市)を第1号店としてスマート無人営業をスタート。現在、無人営業店舗は20店舗まで拡大している。
加藤社長は、無人営業導入のステップとして、セルフレジ導入、客注品の「セルフ受け取りボックス」サービス、そして顔認証入店システム導入へと至った過程について語り、無人営業店の実例を紹介。24時間営業のインドアゴルフやアミューズメント施設が併設されている店舗、無人閉店・無人開店を導入した店舗もあり、それぞれスライドを交えて紹介した。
無人営業中の客層は「8割が男性客、40~50歳代がメイン」とし、「深夜には今まで気づかなかった潜在需要がある」と分析。無人時間の売上は好調で、27年3月末にはインショップを除く全店で無人営業可能となる予定だという。
無人営業導入は、労働人口減少、賃金上昇といった時代の変化に伴い「人手が確保できないことを前提とした運営へと価値観の転換を図った」ものと説明。さらに、顔認証システムを日中も活用し、書店の人員を2人から1人に減らす省力化の実証実験も始めているという。
新しい営業形態への取り組みで自社の経営体力強化に努める一方、今年7月に視察したフランスをはじめ諸外国の出版産業と比較し、日本の業界の課題にも言及。21年以降、営業利益平均値で赤字が続く日本の書店の経営実態に対し、ドイツ、スペイン、イタリアの書籍市場は拡大傾向、フランス、アメリカ、イギリスでは書店数が増加しているという。
その背景として「諸外国は書籍販売だけで書店経営が成り立つマージンが設定されているが、雑誌売上に依存してきた日本の書店の低マージンは、書籍と雑誌の販売額が逆転した16年以降も改められていない」と指摘。「日本も書籍だけで書店経営が成り立つ業界構造に転換しなければ、書店の消滅は免れない」と危機感を示した。「書籍だけで自立できるマージン構造に移行することで出版業界は永続的な発展が可能となる。本のマージン配分を変えるのは出版社にしかできないこと。出版各社の英断をお願いしたい」と訴えかけた。

セミナーは日比谷セントラルマーケット 一角から配信された
〈今後のセミナー〉
10月23日(木)15:30〜19:00(セミナー15:30〜16:45)
大垣書店代表取締役会長・大垣守弘氏による「滅びの危機か、再生の夜明けか―書店の岐路に立って」を会場とオンラインのハイブリッドで開催する。
オンライン開催の申し込みPeatix:https://peatix.com/event/4582021
会場開催の申し込みPeatix:https://peatix.com/event/4581785