講談社が主催する第19回「小説現代長編新人賞」の贈呈式が、7月14日に東京・文京区の講談社本社で開催された。

受賞者の迂回さん(前列左から2人目)、朝宮さん(前列左から3人目)と選考委員
同賞は、ジャンルを問わず、自作未発表の小説を対象とする公募の新人文学賞で、新人作家の登竜門として知られる。今回は郵送とWebによる応募作品641編の中から最終候補5作品が選ばれ、今村翔吾、塩田武士、中島京子、凪良ゆう、宮内悠介、薬丸岳の6氏の選考委員による選考の結果、朝宮夕さんの「薄明のさきに」の受賞が決定した。また、選考委員特別賞に、迂回ひなたさんの「梅咲く頃にまた会おう」が選ばれた。
新人賞の「薄明のさきに」は、納棺師としての職務に従事する人々の姿を通じて、生と死の重みを描く物語。小説初執筆にして初めて公募に応募し、今回の快挙を成し遂げた朝宮夕さんは、受賞のあいさつで「もともと賞に応募しよう思って書いた作品ではなく、自分のなかでどうしても越えられない壁があり、それを乗り越えるために書いたのが始まり」と執筆の動機を振り返った。さらに、受賞は想像もしていなかった結果だったとして「自分が状況を理解するよりも作品のほうがどんどん先にいってしまうようで怖くなったが、逃げ出さずにここに立っていられるのは、編集担当をはじめたくさんの方々の応援のおかげ」と感謝を述べた。

賞状を手にする迂回さん(左)、朝宮さん
選考委員特別賞の「梅咲く頃にまた会おう」は、大学生の主人公が幽霊となった初恋の人との再会を果たすという不思議な物語。迂回さんは「課題はあるが、それを伸びしろとして選考委員の先生方に認めていただいたのだと誇りに思い、真摯に向き合っていきたい」と意欲を表した。
選考委員を代表して選評を述べた今村祥吾氏は、「『薄明のさきに』には、彼女でなければ書けないような覚悟、重さ、小説らしさを感じた」など、同作品が高く評価されたポイントを明かした。また、「梅咲く頃にまた会おう」については「意見が割れた作品だったが、精力的に改稿に取り組まれたと聞いており、その変化を楽しみたい」と期待を示した。そのうえで、「大衆作家として支持されるには、大衆に迎合するのではなく大衆を見つめること。大衆に恋するのではなく、大衆を愛する、そんな作家になってほしい」とアドバイスを送り、「今日は受賞を最大級に喜び、明日からはここにいる選考委員をライバルとして全員倒すつもりでかかってきて」と鼓舞した。

選評を述べる今村氏
受賞作「薄明のさきに」はタイトルを『アフターブルー』に変更し、7月に講談社より単行本として発売された。選考委員特別賞受賞作「梅咲く頃にまた会おう」もタイトルを変更のうえ、講談社より単行本として刊行予定。