【本屋月評】「書いた、走った、飲んだ」(Readin' Writin' BOOK STORE・落合博)

2022年3月17日

 3月6日の日曜日、東京の街を走った。

 

 10年ぶりの東京マラソンだ。東京都庁前をスタートして神保町、上野、雷門、門前仲町、銀座、有楽町、田町、東京駅までの42・195㌔。コロナ禍でフルマラソンは3年ぶり。中間点過ぎまではサブ3・5(3時間半以内でフィニッシュ)のペースだった。

 

 初めて東京を走った10年前、皇居に臨む毎日新聞社で僕は論説委員をしていた。入社以来、運動部記者として野球やラグビーなどを取材していたため、スポーツ・体育を担当した。ときどき編集委員と間違われた。社説を書くのが論説委員の仕事で、編集委員は職制上、社説を書くことができない。

 

 社説とは何か? 国内だけでなく、ロシアによるウクライナ軍事侵攻など海外の事象についても会社としての意見や考えを主張する記事で、書いた人の署名は入らない。そこが書き手の考えが色濃く反映されるコラムとの違いだ。読んで面白いという類の文章ではないため、新聞社内で読んでいるのは論説委員くらいとも言われている。映画化された小説『女ざかり』(丸谷才一著、文藝春秋)は女性の論説委員が主人公で、映画では吉永小百合さんが演じた。

 

 社説やコラムを書きつつ、シーズンになると、週末はランニング大会に出場していた。ハーフマラソンやフルマラソンだけでは飽き足らず、ウルトラマラソン(柴又100k)にも挑んだ。過去7回出場して3回完走している。1年365日アルコールを欠かさない日はないにもかかわらず、お腹が出ていないのは今も走っているからだと思う。

 

 3月6日は編集者のYさんに店番をお願いして、いつも通り営業した。本屋を始めて間もなく5年。Yさん以外にもランニング大会のある週末、店番に入ってくれる人たちがいる。自分ができなけなければ信頼できる人に任せればいい。

 

 58歳で本屋を始めた時から考えていることがある。いつまで本屋を続けるのか。昨年11月、年金受給資格を得た。「低く、長く、遠く」とは言っても、終わりは必ずやって来る。「わたし何だか死なないような気がする」と言っていた作家の宇野千代さんでさえ98歳で亡くなった。僕の寿命もいつか尽きる。

 

 それまで今の生活は続けていきたい。だから墓碑銘は「書いた、走った、飲んだ」と決めている。

 

「東京マラソン完走メダル」開催延期に伴い日付刻印は当初の開催日に

 

バックナンバー:本屋月評(落合博)
▼第1回(1月20日掲載)「低く、長く、遠く」
▼第2回(2月17日掲載)「おススメは鰹節」
▼第3回(3月17日掲載)「書いた、走った、飲んだ」
▼第4回(4月14日掲載)「ガラスの下駄」を履いていた
▼第5回(5月12日掲載)サン・ジョルディの日
▼第6回(6月9日掲載:最終回)「いかれた店主」の独り言

 

落合 博(おちあい・ひろし)  ©chloe

 1958年山梨県甲府市生まれ。「Readin’Writin’BOOKSTORE」店主兼従業員。東京外国語大学イタリア語学科卒。読売新聞大阪本社、ランナーズ(現アールビーズ)を経て、90年毎日新聞社入社。主にスポーツを取材。論説委員(スポーツ・体育担当)を最後に2017年3月退社。著書に『新聞記者、本屋になる 』(光文社新書)などがある。

 

〈店舗情報〉Readin' Writin' BOOK STORE(リーディンライティン ブックストア)
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