【電子書籍特集】広がる電子出版市場 文字もの、海外などに可能性

2021年8月2日

 

 電子出版は今年上半期も前年同期比24・1%増と大きく伸びた。販売額2187億円のうち9割に近い1903億円を電子コミックが占めるという傾向に変わりはないが、文字もの電子書籍も金額は231億円ながら同20・9%増と伸び率は大きい。これまで一部の出版社が恩恵を得てきた電子だが、その裾野は広がりつつあるようだ。

【星野渉】

 


専門・中小出版社も実感持つ

 

 「電子版の売り上げが良くなっている」と感想を漏らす書籍出版社の経営者が増えてきた。学術書や専門書も出す中堅出版社や中小出版社からもそうした声が聞こえてくる。

 

 これまでも伸長してきた電子出版だが、昨年来のコロナ禍でさらに伸びが顕著になっていることがそうした印象を強めている。「巣ごもり需要」が発生したことと、公共図書館や大学図書館での電子図書館サービスの導入と利用が増えていることなどが背景にある。

 

 2020年は電子コミックの伸び率が前年比31・9%と同調査が始まった14年以来最大の伸び率になった。

 

 一方、文字もの電子書籍の成長率は15年が同18・8%増、16年が同13・2%増、17年が同12・4%増、18年が同10・7%増、19年が同8・7%増と、コミックに比べて分母は小さいものの確実に成長しており、20年は同14・9%増と16年以来の高い成長率になった。

 

 こうした市場拡大によって、コミックを刊行していない出版社にとっても、電子書籍の可能性が広がりだしている。さらに、各電子書店やそうした電子書店にコンテンツを配信している電子取次では、海外市場に向けた配信や取次事業にも力を入れ始めている。

 

 今回の未曾有の事態は出版市場の形を大きく変え、出版社にとっては新たな可能性を示す契機になるようだ。

 

▼電子書籍特集2021(文化通信8月2日付9~12面掲載)▼

 

▽拡大する電子出版 文字もの伸長を中小出版社も実感

 電子出版市場の拡大が続いている。2021年の年初には、時代小説の大家が電子化解禁を宣言。中小規模の専門書出版社も紙・電子の同時配信に取り組む動きがでている。電子図書館事業を営む事業者にも新型コロナ禍をうけて利用者増が続いている。各事業者を取材した。

 

▽ブックウォーカー デジタルファーストが進む海外出版のニーズに応える

 ストア運営から取次事業まで、電子書籍サービス全般を手掛けるブックウォーカー。国内向けの総合電子書店BOOK☆WALKERのサービス拡充を進める一方で、最近特に力を入れているのが、海外事業の拡大だ。日本の出版社と直接契約可能な自社運営の海外向け電子書店を拡充させつつ、海外電子書店への電子書籍取次サービスも開始。日本の出版コンテンツを海外展開するためのグローバルプラットフォームとしての態勢を整えている。

 

▽パピレス 電子取次事業を本格化、日本のコンテンツを世界へ

 日本でもっとも早く電子書籍配信サービスを開始したパピレスは1995年の創業以来、電子書店「Renta!」をはじめとした電子書籍配信サイトの運営、海外向け電子書籍配信などの事業を展開している。2020年1月から電子取次事業も開始。日本のコンテンツをどのようにして世界へ送り出すのか、パピレス代表取締役社長の松井康子氏に取材した。

 

▽MBJ コミックから学術・専門書まで、チャネルが強みの電子取次

 2000年9月、電子文庫出版社会による「電子文庫パブリ」の運営を引き継ぎ、04年に携帯電話向け電子書籍配信サービス「どこでも読書」を開始、翌年には会社分割によってMBJが設立された。06年に増資、現在は大日本印刷(DNP)が筆頭株主となっている。小林亨社長は「電子書籍の黎明期から日本で初めて電子書籍取次事業をスタートし、業界の発展に努めて来ました」と語る。

 

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