【電子書籍特集】モバイルブック・ジェーピー コミックから学術・専門書まで、チャネルが強みの電子取次

2021年8月2日
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紙と電子、さらに音声、PODなどにも一気通貫で対応

 

 モバイルブック・ジェーピー(MBJ)の前身は、MBJの創業者である取締役相談役・佐々木隆一氏が立ち上げ、NTTと音楽・芸能各社を中心として1996年に設立された音楽・動画・書籍等配信サービスを提供するミュージック・シーオー・ジェーピー(現エムティーアイ)。

 

 同社は2000年9月、電子文庫出版社会(光文社・講談社・徳間書店・文藝春秋・角川書店・集英社・新潮社・中央公論新社により設立)による「電子文庫パブリ」の運営を引き継ぎ、04年に携帯電話向け電子書籍配信サービス「どこでも読書」を開始、翌年には会社分割によってMBJが設立された。

 

 06年に増資、現在は大日本印刷(DNP)が筆頭株主となっている。小林亨社長は「電子書籍の黎明期から日本で初めて電子書籍取次事業をスタートし、業界の発展に努めて来ました」と語る。

 

 同年、電子書籍の取次事業を開始。スマートフォンの普及とともに需要は増し、特に10年代後半になるとコミックを中心に電子書籍のユーザーが飛躍的に増加した。そして昨年からの新型コロナウイルス感染症の拡大による、いわゆる「巣篭り需要」で取扱量はさらに増えている。

 

紙と電子の同時制作やPOD展開もサポート

 

 現在は契約出版社2970社、取扱タイトル約76万6300点。内訳は、書籍(文芸)1390社、約41万1000タイトル、コミック665社、約20万8000タイトル、オーディオブック・写真集230社、約4万3800タイトル、雑誌・学術書/専門書695社、約10万7500タイトル。電子文庫パブリを通して出版社との繋がりも深く、コミック以外のいわゆる「文字もの」の取扱が多いことも特徴といえるだろう。

 

 電子取次としての取引先は、2021年6月末現在で約120書店。国内でサービスを行っている主要なスマートフォン書店、外資系書店、コミック系書店のほぼすべてをカバーしており、加えてハイブリッド型総合書店「honto」にコンテンツを提供しているほか、自社の「どこでも読書」「電子文庫パブリ」にも展開している。

 

 DNPグループに属しているため、紙と電子双方の書籍を同時進行で製作できることも特徴。DNPで印刷受注している出版物なら、紙の下版から即座に電子用のEPUBを製作しMBJに納品。すぐに配信を開始できる。このためリアル書店と電子書店の同時展開も容易となる。また、その過程でプリントオンデマンド(POD)用データを作製することも可能だ。

 

電子図書館の広がりで「文字もの」も増加

 

 さらに、電子書店、リアル書店だけでなく、図書館についてはグループ内の図書館流通センター(TRC)で公共図書館など、丸善雄松堂で主に大学と、多角的なチャネル展開が可能となることも、MBJの大きな利点だろう。

 

 昨年来、感染対策の観点から自治体では非接触型のサービスとして電子図書館の導入を進めている。チラシやポスターなどでリアルの図書館利用者に対して電子図書館をPRしたり、コロナ禍で休館中は電子図書館を利用するよう呼びかけるなど普及に努め、着実に利用が伸びているという。

 

 また、TRCが提供しているクラウド型電子図書館サービス「TRC―DL」はKADOKAWA・講談社・紀伊國屋書店・DNP・TRCの5社が出資する日本電子図書館サービス(JDLS)が提供する「LibrariE(ライブラリエ)」との連携を進めており、「LibrariE&TRC―DL」は導入館数をこの1年間で急速に伸ばしている。

 

 コロナ以前に導入していたのは約100館、コロナ禍で新たに約100館が導入に至ったため、近々200館を超えるとされる。このように導入館・利用者が着実に増加しており、それに伴ってコンテンツの売り上げも伸びている。

 

 従来の電子書籍の販売はコミックが圧倒的多数で、コミック8割に対して文字ものなどの書籍は2割といったところ。しかし電子図書館の場合は、文字ものといった書籍のシェアが高い。コミック以外のコンテンツを広げていく機会として期待できる。

 

 中でも、子育て中の親たちからの児童書、特に絵本への要望が目立っているという。児童書の出版で知られる同グループの岩崎書店も、多くの電子書籍を提供している。「公共図書館で電子書籍を扱うことによって、初めて電子書籍に触れる人も多い。さらにユーザーは増えていくだろう」と小林社長は語る。

 

大学・研究機関向けの専門書・教科書デジタル化も推進

 

 丸善雄松堂は自社で開発・運営している学術研究機関向け電子書籍提供サービス「Maruzen eBook Library(MEL)」を大学・研究機関等800拠点以上に導入し、8万点以上のタイトルを扱っている。対象が研究機関であるだけに、専門書や教養書、学術雑誌のラインナップが豊富だ。

 

 大学生協との取引もあり、新年度の教科書・サブテキストの購入によって3~4月には大きな需要が生じる。コロナ禍で対面・リモート双方による授業が続くなか、教科書・専門書においてもデジタル書籍のニーズは今後も高まっていくと見込まれる。

 

 一方、大学図書館を通じた書籍の提供は、紀伊國屋書店が学術和書電子図書館サービス「KinoDen(キノデン)」を展開。未購入タイトルも含めた全文検索、ほぼ全点の試し読み、といった点が特長だ。こちらもMBJのプラットフォームを利用しており、国内外280以上の大学図書館に約3万タイトルを提供している。この2つのチャネルを併用することで、研究機関と大学図書館の両方に書籍の納入が可能になり、出版社にとってのメリットは大きい。

 

 さらに、大学教科書においてはオンライン授業で利用する学内システム「Learning Management System(LMS)」を通した提供も検討中。実現すれば電子教科書・教材のオンライン購入・閲覧、電子図書館サービスの利用を可能するだけでなく、キーワードやジャンル別横断での検索機能が充実しており、教科書未決教員への情報提供なども行いながら電子教科書選定をもサポートしていく。

 

 対面授業での利用には、プリントオンデマンドも利便性が高い。MBJではハイブリッド型総合書店「honto」や「AmazonPOD」などを通して提供中だ。

 

 こうした専門書のニーズは、専門出版社のコンテンツ開拓に繋がっていくだろう。小林社長は、「専門書についても電子の取り扱いを加速させたい」と意欲を燃やしている。医学書は、座学では電子、オペなど実習では端末を持ち込めないので紙と、双方の併用が見込まれるだけに今後とも重視していく方針のようだ。

 

プラットフォーム化で月数百件のキャンペーン可能に

実施した月間のキャンペーン件数のサムネイル

 

 電子書籍の販売では、無料での閲覧、割引価格などさまざまなキャンペーンが展開されているが、MBJではキャンペーンのプラットフォームシステムを整備した。

 

 出版社のキャンペーン企画を受領するところから、データベース登録→募集→書店のキャンペーン企画検討・エントリー受付→コンテンツ納品→プラットフォーム登録→コンテンツ公開→キャンペーン実施まですべて完結することで、出版社にとっても書店にとっても利便性の高い運用形態になった。

 

 このプラットフォームによって同時期に多くのキャンペーンを走らせることが容易となり、取り扱うキャンペーン数は、出版社発案のものに限っても以前に比べて大幅に増加。さらにコロナ禍の影響で飛躍的な伸びを示し、21年4月には1カ月で841本と過去最高数を記録したという。

 

マンガのサブスクでアフリカ・南米などにもリーチ

新たな地域にリーチしているWebサイト版「Manga Planet」(https://read.mangaplanet.com/

 

 海外向けのサービスとしては、DNPとファンタジスタの共同運営によるFacebookページ「Manga Planet」を12年に開設。海外ファン向けの日本マンガマーケティングの実証実験を開始した。現在は約100万の「いいね!」を集めている。

 

 さらに、Webサイト版も18年に開設。国内出版社やクリエイターと海外配信ライセンス契約を結んで英語版を作成、19年から電子書店のサブスクリプションサービス(月額6・99ドルの定額読み放題)として配信・販売を行っている。

 

 シンプルなユーザーインターフェイスと課金方式によって、東南アジアを中心にアフリカ、南米といった、既存の電子マンガサービスのリーチが難しかった地域のファンを集めることに成功している。イベント出展等によってインド、タイ、フィリピンなどのマンガファン・関連企業と協力体制を構築しており、今後はさらに現地のリアルな声を反映させたサービスを展開していくという。

 

 今やグローバルな人気を確立しているボーイズラブ(BL)作品についても、別に専門レーベル「futekiya」を開設。同じく19年から英語版の配信を開始した。Facebook、Twitter、Instagramと各SNSでPRも行っており、公式ブログでは作品紹介や作家インタビューも掲載されている。

 

 料金はこちらも月額6・99ドルのサブスクリプション方式で、今後は「Manga Planet」と両方を利用しているユーザーへの割引価格での提供も予定している。

 

 海外展開には、海賊版への対策、他地域とはかなり事情の異なるインドでの展開など、課題は多い。だが世界のユーザーに向け、今後の成長も大きく期待できることは間違いない。

 

既刊需要の掘り起こしに向け新検索エンジンを準備

 

 一方、MBJでは電子書籍の約30%強が年間で1回も購入されていない休眠作品であることに着目。休眠作品群の収益を改善し、ユーザーにより多くの作品との出会いを提供するため、新検索システムを導入。既刊ロングテール作品の掘り起こしを行う計画だ。

 

 この検索システムでは、書籍ごとの「特徴」に近い本を見つけ出すといった機能を持ち、各出版社の書籍(文字もの)約20万タイトルをカバーすることを想定している。

 

 9月をめどにMBJの自社書店である「どこでも読書」で実証実験を開始、その結果の評価を踏まえ、プラットフォームサービスのひとつとして他の電子書店への展開も進めていく予定となっている。また、検索ワードやレコメンドデータをマーケティング情報として出版社にフィードバックすることも検討中だ。

 


 

モバイルブック・ジェーピー(MBJ)

代表者:代表取締役社長 小林亨

所在地:〒101-0051東京都千代田区神田神保町3-2-3 Daiwa神保町3丁目ビル6F

電 話:03-5210-2306(出版営業開発部)

設立日:2005年1月5日

資本金:1億円

従業員:117名(2021年4月1日現在)