文化通信社 創業75周年記念シンポジウム 出版社×書店×取次トップ対談

2021年7月19日

第1部は「これからの流通・取引制度と書店のあり方」

 

 文化通信社は7月13日、創業75周年を記念したシンポジウム「出版社×書店×取次トップ対談 これからの出版業界のあるべき形を考える」を東京・千代田区の神田明神文化交流館「EDOCCO STUDIO」(エドッコスタジオ)で開催した。第1部は有隣堂・松信健太郎社長と日本出版販売(日販)・奥村景二社長が、第2部は河出書房新社・小野寺優社長(日本書籍出版協会理事長)とトーハン・近藤敏貴社長が登壇。出版社、書店、取次のトップリーダーがそれぞれの立場から出版業界の展望について語り合った。

 

第1部「これからの流通・取引制度と書店のあり方」

 

 記念シンポジウムは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、会場への参加人数を制限し、出版社や関係団体など約70人が出席。対談の模様はオンラインでも配信し、約700人が視聴した。第1部、第2部ともに司会は文化通信社・星野渉専務取締役が務めた。

 

 第1部は「これからの流通・取引制度と書店のあり方」と題して、書店と取次が取り組んでいくべき課題や新しい可能性について議論した。

 

有隣堂・松信社長

 

 松信社長は2019年末から続いている新型コロナウイルスの影響を説明。また、コロナの影響を受ける前の09年度と19年度を比較し、全国の書店の売上高が10年で約7000億円減少(36.1%減)したと指摘。そのうえで、「マーケットの縮小はしばらく続く。書籍・雑誌のV字回復は描きづらい。人件費や支払手数料も問題となっている。書店が存続していくには粗利の改善が必要だ」と提言した。

 

日販・奥村社長

 

 奥村社長は出版業界の抱える問題として出版流通の持続性を挙げた。書店の粗利改善については「日本政策金融公庫によれば書店の粗利率は22.8%、一方で小売業全体の粗利率は37.5%と大きな差がある。書店の販管費が21.5%なので、営業利益率は1.3%になってしまっている。一方で小売業全体の営業利益率は2%を超えている。このままでは書店が持たない」と述べた。

 

 そのうえで「流通改革の中で粗利率を高めていく。アクションを起こし、取り組んでいくことが一番の課題だ」と強調した。

 

 また、書店ビジネスの可能性について、松信社長は「HIBIYA CENTRAL MARKET(ヒビヤ セントラル マーケット)」や「誠品生活日本橋」などを紹介。さらに、「本の可能性も追求していくべきだ。紙の本だけでなく、大手総合出版社がコンテンツメーカーにビジネスモデルを転換しつつある中では、書店も変わっていかなければならない」と述べ、「紙の本を売るのに加え、コンテンツに対するプロモーションとデータマーケティングの場として書店を活用すべき」と話した。

 

 AIやRFID(電子タグ)の活用に関連し、講談社、集英社、小学館の出版社3社が丸紅と出版流通の新会社設立に向けて動いていること対して、奥村社長は「需要予測やマーケティングデータの活用は日販の考えている方向と一致している。どこかで協力できるタイミングがあればと思う。RFIDについても、物流面で大きな効果が見込める」と期待をにじませた。

 

 松信社長は「RFIDの実用化は書店にとって計り知れないメリットがある。業務とコストの改善、万引き防止やセルフレジの活用、さまざまな効果を見込める」と述べた。全ての商品に実装し、業界のインフラとして整備することを強く求め、「業界全体がマーケットイン思想で運営していくには、書店店頭でのデータマーケティングが不可欠だ。RFIDはそれを強力に推進するツールとなる」と強調した。

 

第2部「出版業界の再構築に向けて必要な取り組みとは」

第2部は「出版業界の再構築に向けて必要な取り組みとは」

 

 第2部は「出版業界の再構築に向けて必要な取り組みとは」と題して、書協理事長でもある小野寺社長と、7月1日に出版文化産業振興財団(JPIC)の理事長となった近藤社長が対談した。

 

トーハン・近藤社長

 

 近藤社長は新しい出版流通モデルについて、「マーケットインを推進してきたが、この1~2年で返品率が改善し、書籍・雑誌の刊行情報の流れが整理されてきた。一番大きな要因は日本出版インフラセンター(JPO)が『BooksPRO』を作ったことだ。トーハンも取次として協力し、出版社の登録数は約90%になった。取次にとっては作業計画が立てやすくなった」と話し、出版社の近刊情報が流通サイドに届くようになった点を高く評価した。

 

 また、トーハンとして「書店、出版社、取次の3者がつながり、出版情報の流通と予約注文を整え、メディアドゥのゲラ配布サービス『ネットギャリー』とも連携し、刊行部数の適正化を図っていきたい。マーケットインの道筋ができたことは大きな進歩だ」と述べた。そのうえで、2022年10月には書店・出版社向けの「新仕入プラットフォーム」を稼働できると説明した。

 

河出書房新社・小野寺社長

 

 AIによる配本については、出版社の立場から小野寺社長が「返品を抑える取り組みには全く反対しないが、極端に仕入れ部数が減らされる懸念や不安は抱いている。返品が減少しても、それ以上に搬入が少なくなれば、売り上げは落ち込み、経営は成り立たない」と指摘した。

 

 出版社にとっては実売率が上がらなければ部数を抑制したメリットがないとしたうえで、「あくまでモデルケースでの試算だが、そうなったとき出版社は定価を上げるか、新たな新刊を急造でもしない限り、売り上げの維持が難しくなる」と問題点を挙げた。

 

 また、配本店舗数の減少によって、本の露出が減少し、本との出会いや多様性が衰えることなどを懸念した。

 

 小野寺社長は「出版流通の効率化には賛同しているが、刷り部数が減れば著者の印税も減り、執筆環境が悪化し、新人や中堅作家は多作でなければやっていけなくなる。こうした視点も持っていなければならない」と述べた。

 

 続いて、本の価格の議論では、近藤社長は物流費の観点から「出版流通を3年後も維持しようとしたとき、本の価格を現在の130%にしても物流費を吸収できない。驚くかもしれないが現実だ。こうした議論を先延ばしにする余裕はない」と強調した。

 

 小野寺社長も「大量に送り、大量に売れる時代ではなくなった。今まで通りにはいかない。物流費を適正に価格へ転嫁できなければ、出版そのものができなくなる」と話した。

 

 近藤社長はドイツ図書流通連盟(DBD)の事例を紹介し、「出版情報の管理、消費税の軽減税率などロビー活動の中核をDBDが担っている。日本は書協、日本書店商業組合連合会(日書連)、日本雑誌協会(雑協)、日本出版取次協会があるものの連携できていない。各団体のトップが副理事として参加しているJPICで、出版業界の諸問題について話し合う委員会を作ろうとしている。まずは書店の未来を築く視点から議論していく方針だ」と述べた。将来的にはDBDのような組織に発展させたいとの考えを示した。

 

 小野寺社長も「ロビー活動では出版界の総意を問われる機会が増えてくる。その点で言うのならば、団体の垣根を越えて話し合える場所は必要だ。書店が抱えている問題に向き合うのは意義のあることだ」と述べた。