【書店員の目 図書館員の目】「ぼくはほんやさんになる」で学んだこと

2021年7月13日

「ぼくはほんやさんになる」

 

 私事で恐縮だが、7月末に「ぼくはほんやさんになる」(ニコモ)という絵本を出版させていただくことになった。

 

 ストーリーは、戦前から続くおじいちゃんの本屋をぼくが継いでいくぞというもの。どんどんなくなっていく町の書店にエールを送らねば、小さい子にもリアル書店の大切さを知ってもらいたい、と思って原作を私が温めていたのだが、それを見た絵本作家の塚本やすし氏が「自分が絵を描くからぜひ出版するべき」と言ってくれて実現したものだ。

 

 版元のニコモは、印刷屋の子会社でこれまで自社サイトとアマゾンで手堅い商いをしてきたのだが、昨年塚本氏の「コロナとたたかうぼく」を手がけて、リアル書店の大切さに目覚め、今回手を上げてくれた。

 

 塚本氏の熱意も生半可ではなく「帯は僕が担当します」、「装丁もまとめます」と言ってくれ、たいへん楽しい創作、編集の時間を共有させていただいたのだが、その過程でこの業界が抱えている様々な事象にも出くわした。

 

 まずは取次である。上述の通りニコモは、印刷部門を自前で持ち、小部数をほとんど返品なしで売っていくというパターンで利益を出してきた堅実な出版社だ。それが初めて取次を通して少し大きなアプローチをしようと踏み出してくれたのだが、彼らにとって取次の提示する取引条件は、アメージングだったようだ。

 

 詳細には語ってくれないが「今後2、3年の出版計画(年4、5冊は出してほしいらしい)を出せ」、「注文品の出荷だけでなく、新刊配本してほしい」は特に"なぜ"…の様子。

 

 長年この業界に身を置いてきた私としては、取次の苦しい事情もわかるのであるが、堅実な経営をしてきた出版社にとっては「うっせーわ!」ということなのであろう。

 

 取次も出版流通の原点を忘れずに、いいものを真摯に追求しようとする出版社には自己の都合を主張するだけでなく、有意義な議論をしてほしいなと思った。

 

 ニコモは取次の1社と妥協点を見つけ、取引を開始しているが、新刊配本については、やるかやらないかを見直す時限を過ぎているのかもしれない。講談社、小学館、集英社が丸紅と組んで自社物流を考える宣言は、それを見すえたものであろう。

 

 日本の文化衰退を防ぐためにも中小書店を大切にし、存続を図っていかねばならないと思っているが、それには取次の物流機能は欠かせない。取次もぜひ生き残ってくれなくてはならないのだ。

 

 物量の確保も大事な問題だろう。一方、出版社に納品搬入負担金をお願いするのもわからないではない。しかし基本に戻った根本的対策を見つけられなければ、出版社はどんどん直販の方向に進み、リアル書店はさらに窮地に立たされる。そんな状態は防がねばなるまい。

 

 自分の作品で恐縮だが、今回の本の趣旨をなるべく多くの書店に理解してもらって、少しでも広めていきたく、知人を中心に案内を開始している。おかげさまで、好意的な反応をしてくださるところが多くてうれしい限りである。

 

 また、地域の書店と連動して活動している図書館や団体からの連絡も多数いただいている。リアル書店が元気になってほしいと思っている人がたくさんいるということを実感させてもらい、アフターコロナ、日比谷図書文化館の出版に関するセミナーも復活させなければと思っている。

 

菊池壮一 日比谷図書館文化館・元リブロ