【つぶや記】2026年7月7日付

2026年7月7日

 毎年、夏休みが始まると書店に行き『「新潮文庫の100冊」から1冊買う』のがささやかな楽しみだった。数多ある本から選び抜かれた100冊、どれを読んでも間違いないはず。そう信じて未知の作品に手を伸ばした◆中2の夏に選んだのは遠藤周作『海と毒薬』。戦中に人体実験に関わった医師・勝呂を主人公に、人間の良心と罪の意識を問う重厚な作品だった。作中、病院の屋上で碧く光る海を眺めながら、勝呂が詩を口ずさむ場面がある。死が日常にある日々、戦争のことも自ら関わった実験のこともその時だけはかろうじて忘れられる気がする、と◆その立原道造の詩「雲の祭日」の一節を、夏の空を見上げた際に今でもふと思い出す。「空よ お前の散らすのは 白い しいろい 綿の列」。「新潮文庫の100冊」は今夏で50周年を迎えるという。あの頃を思い出して久しぶりにこの夏の1冊を探すつもりだ。【尾川健】