【行雲流水】2024年6月4日付

2024年6月10日

 某月某日

 

 週末、両親の郷、岡山へ墓参り。父が生前贔屓にしていた『魚正』が代替わりして『魚正 山本淳』になって二年、引退した二代目・洋子さんに電話し席を確保してもらう。足を踏み入れた刹那、女は体温が高いからと、手を氷で冷やして握っていた先代の姿を想う。
 次男で三代目の大将・淳さんは口数少なく、しかし手際と手捌がいい。「お父さんに似てますね」とニヤリとする笑顔は母譲り。鰆酢白子に始まり、少し昆布締めした鯛、ベイカ、天然鰻の直焼き、焼き穴子の一本握り、愛媛の赤ウニ、ハリイカの握り…。「西の横綱」と呼ばれてきた名声いや増すばかり、この鮨のために訪れる価値あり。

 

 某月某日

 

 「全国郷土紙連合創立50周年」パーティーに出席する。コロナ禍で中断、4年ぶりの開催となる。
 十勝毎日・林浩史社長のデジタル版への意気込み、長野日報の佐久秀幸会長からは夜中に受けたランサムウェア被害の生々しい様子、釧路新聞の星匠社長が実は〝乗り鉄〟だったなどなど、立ち話。
 小社は目下4回目となる「ふるさと新聞アワード」の準備に入っている。これまで主に自薦記事の中から審査していたことで参加社の広がりに欠けていた。その反省に立ち、今回から、日本大学大学院・塚本晴二朗教授や跡見学園女子大学・富川淳子教授、文教大学・清水一彦教授らに記事のピックアップを依頼、専門委員として一次選考にも加わっていただくこととした。また、最終審査には、新たにジャパンタイムズ・末松弥奈子会長兼社長が参画、グローバルな視点で選考してもらう。地域紙の優れた記事を顕彰する取り組みが大きく前進する。関係各位に感謝。

 

 某月某日

 

 東急歌舞伎町タワーで歌舞伎を観る。「歌舞伎町」とは、戦災復興事業の一つとして歌舞伎の劇場を誘致したいとの願いで命名された町名。時を経て、タワー開業一周年を機に上演されたことである。
 父・母・子・婆の雷を一人で踊り分ける「流星」は勘九郎。出色は落語「貧乏神」をもとにした世話狂言「福叶神恋噺」。腕は良いが怠け者の辰五郎に憑依した、七之助演ずる貧乏女神〝おびんちゃん〟。辰五郎を放っておけず甲斐甲斐しく世話を焼き…終いには福の神となる大団円まで、満場笑いの渦。
 江戸三座のひとつ、中村座を「平成中村座」として復活させた、18世・中村勘三郎の遺志を継ぐ二人の忘れ形見からは目が離せない。