【出版時評】商売人魂を持った奥村氏

2020年8月24日

 今年は各地の書店商談会が軒並み中止になっているが、オンラインによる商談会が試みられ、評価を得ているという。リアルかバーチャルかに関わらず、書店と出版社が顔を合わせて商談する場は必要とされているのだ。

 

 10年前に商談会の先駆けとなった首都圏書店大商談会を構想し、自ら実行委員長として牽引した南天堂書房の奥村弘志氏が亡くなった。病のため入退院を繰り返していたことは伺っていたが残念だ。

 

 奥村氏は書店組合の役員や、取引取次の書店会会長などを歴任し、常に「街の本屋」の行く末を気にしていた。外商に飛び歩き、東京では若手書店人(かつての)のリーダー格であり、お店がある東京都文京区の白山には出版社の営業担当者も集まった。

 

 そういう思いと人脈、そして行動力が、商談会実現の原動力になったのだと思う。「一人の情熱が事を起こす」を体現した人だった。

 

 南天堂書房は白山で大正時代から営業してきた。奥村家は元々徳島で藍商の大店の出身だが、戦前に書店の経営を引き継いだという。昨年、同書房の協力で徳島の藍屋敷おくむら藍住本店内に藍にまつわる出版物を集めた「藍の書房」が開店している。

 

 奥村家は文化年間に藍商となり、その後、各地に商売を拡大したという。奥村氏にはそういう商売人の血が流れていたのだろう。その思いを引き継いでほしい。

【星野渉】