【行雲流水】文化通信2020年7月20日付

2020年7月20日

 某月某日

 食品業界の勉強会で、タイソンズアンドカンパニーの寺田心平社長を囲んでお話を伺う。会場のT.Y.HARBORは寺田さんの祖父が戦後建てた古い倉庫の一つを改造し、97年に開業した350席のブルワリーレストラン。この季節、運河を望む広いテラスで飲むクラフトビールがうまい。

 出自である近江商人の言葉、「現状維持は退歩なり」を引用。時代とともに事業を取り巻く経済環境が変わる中で、寺田家のビジネス=ファミリービジネスの存続を目指すのではなく、ファミリーを存続させるために、創業時の糸問屋→質屋→倉庫業→空間ビジネス→そして今、IT・飲食と、ビジネスの方を変化させてきたと。

 ちなみにTYは寺田さんの父、寺田保信氏の頭文字で、社名のTYSONSもTYの息子たち=SONSと聞いて一同大いに納得。

 某月某日

 『味の手帖』の取材で、ホストの遠山正道さん、ゲストのギャラリスト・小山登美夫さんと銀座の「すし善」でランチ。文化人ゆえ、ギャラリストという聞きなれぬ職業は初耳だったが、自前のギャラリーを持ち、そこで所属アーティストの展覧会を開き作品を売る美術商のことらしい。また、花の絵が定番で確実に高値が付くアーティストが新たな領域に踏み出したい、あるいは小山さんが踏み出すべきと考えた場合、それを世に出す役割を担うこともあると。ある意味、出版編集担当と作家の関係に似ているのだろうか。

 「すし善」は私の最も好きな寿司屋の一つである。本店は札幌にあり東京店を仕切るのは石津川寧店長。余計なことはしゃべらず、訊いたことにはきちんと答えてくれる。寿司も必要以上に熟成をかけたり、さまざまに味を加えたり飾ることを一切しない、まっすぐな寿司道精神が気に入っている。

 某月某日

 東急時代の後輩たちと銀座シックスにある、ミラノで1817年創業の老舗カフェ「COVA」へ。

 女性メンバーが数日前に誕生日であると自己申告してきたのをスルー出来ず、「和光」に立ち寄り品定め。ハンカチやマグカップは一つでは寂しいし、折り畳みミラーかなと迷った末に、業界人としてはと、ブルーの房のついたブックマーカー3300円也を。久々の訪店だが、やはりここはいい。

 ちょいと遅刻し、アペリティーボからサフランのリゾット、カツレツなどをワインで愉しむ。

【文化通信社 社長 山口】