【出版時評】コミックが支える出版流通

2020年6月1日

 日本出版販売とトーハンの上半期ベストセラーは、コミック『鬼滅の刃』(集英社)の小説版が、コミックを除く「総合」の上位を占めた。同作品コミックスの発売日には書店に行列ができるという最近あまり聞かなくなった現象も起きていて、その力を実感する。

 

 それにしても、コミック関連の商品が半期、年間のベストセラートップになるのは珍しいのではないだろうか。遡って見ても、コミックというと『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)が目につくぐらい。これも吉野源三郎の小説を漫画化した作品であった。

 

 出版科学研究所が発表した4月の書籍・雑誌販売概況は、やはり休業店が多かったことで11・7%減の二桁マイナスになった。特に書籍は学参が20%増と好調だったにもかかわらず、21・0%減と大きな影響を受けている。

 

 その一方で、雑誌は0・6%減の微減となり、定期誌やムックが落ち込むなかで、コミックは約12%増と好調を維持している。返品が店頭に滞っているという要素もあるようだが、コミックが出版流通を支えているといっても過言ではないだろう。

 

 しかも、コミックはデジタルでも伸び続けている。最近は出版社が電子版の販促手法を紙版にも生かす取り組みで売れ行きを伸ばしているが、この分野は紙と電子が相乗効果で伸びるという先行事例になっている。

【星野渉】