【行雲流水】文化通信2019年12月23日付

2019年12月23日

某月某日

 久々のパリである。オーナー系出版・書店経営者に声がけして総勢8名の調査団を結成。視察・ヒアリングの詳細は、いずれ本紙に掲載するので割愛するが、パリの書店が、国や自治体、そして出版社が出資して設立された団体からの補助や無利子融資によって手厚く支援されていて、チェーン店以外、ほとんどの店がその恩恵に浴していることを寡聞にして初めて知る。もう一つ、クリスマスシーズンに入っていることもあるが、本をギフトとして贈る習慣が色濃く、絵本や写真集はもとより、中にはブランドブックなど、美しい表紙デザインや、天地や小口に装飾を施すなどした、ギフト需要を意識した作り込みをして書籍が多くあることも印象的。もちろん、ラッピング・サービスも充実している。

 

 食の都・パリも満喫する。コーディネートをお願した、現地で日本向けのワイン情報誌を発行する友人のW女史が、伝統的なフレンチビストロから熟成肉の本場ならではのハンバーガー屋、さらに星付きのレストランまで、ヨコ飯に疲れた頃合いには日本食レストランやラーメン屋を差し込んでくれた。日本食店はどこも予約困難、あるいは行列必至。日本食は単なるブームではなさそうだ。

 

某月某日

 

 新年号トップインタビューで小山薫堂さんの事務所を訪ねる。2005年に『味の手帖』でインタビューした当時は41歳、私もまだ40代後半とお互い若かった。いろいろな湧き出るアイデアに、自分と同じ匂いを感じた覚えがある。今や月とすっぽんではあるが…。

 それから程なくして、再建の命を受けて出向していた、駅ナカ事業を経営する会社の事務所を訪ねて来た。様々な企業のキャラクターなどが入ったカプセルが出てくる無料の“ガチャガチャ”を駅売店の横に設置できないかという相談だった。これは面白い、と一旦は乗り出したが、いざ具体論になると、無料だと無秩序になる、どうやって統制する、補充するカプセルのストック場所は?など、様々な課題が出てきて結局実現できなかったが、今もって心残りである。

 

 インタビューでは、様々なアイデアで企業のコンサルティングに取り組む小山さんに、活字業界活性化のヒントを伺った。豊かな感性や物語を創る発想の豊かさは天賦の才だが、それを実行に移すには、社内外の知見と人脈が成否を分ける。彼の多面的な活動によって蓄積されてきたことは確かである。

 

某月某日

 大学時代のサークルの仲間との忘年会。会場の選定は(味の手帖の)私の役目となっているが、参加女子のダンナが定年になったあたりからは、彼女たちの立場を慮ってリーズナブルで旨い店を選ぶことにしている。

 

 この日は神田駅のガード下にある『味坊』。オーナーが黒龍江省出身とあって中国東北部の料理が主体の店である。まずはビールにクミンがたっぷりかけられたラム肉の串焼きと押し豆腐、水餃子などを注文する。中盤と〆に外せないのが「骨付き羊背肉の塩煮」と「豚バラ肉の白菜漬け煮」。自然派ワインは1本2700円均一で、トータル5000円程度で楽しめる。常時満席、騒然としているので、負けずに騒げるメンバーで行くべし。

 

 さて、本年最後の小欄となる。来年が平穏無事でありますように。佳いお年を。

 

(文化通信社 社長 山口)