【出版時評】枠組みの変化と新しいこと

2019年10月7日

 消費税率が10%に上がり、合わせて軽減税率やポイント還元など新たな制度も導入されたことで、小売現場の対応などに懸念の声もあがっている。出版物の売れ行きにどの程度の影響が出るのかも気になるところである。

 

 1989年に消費税3%が導入された際、出版業界は税込み価格を定価とする「内税表示」を選択したことで、旧定価表示商品の大量返品が発生し、カバー替えや定価シール貼り、大量断裁など大きな負担を強いられた。公正取引委員会の指導によるものだと行政訴訟も起こされた。

 

 5%に増税された97年は、導入時の混乱に懲りて本体価格を表示する「外税」に移行したが、このときも旧税率の内税表示と本体価格表示が店頭に混在し、旧税率表示商品を新税率で計算するため書店でのPOSレジ導入が進むことにもつながった。その後も「総額表示義務化」に伴ってスリップ坊主に総額を表示するといった措置も執られたが、いまやそのスリップ自体がなくなろうとしている。

 

 出版取引の仕組みは問題点や新たな方向性が示されながら、なかなか抜本的な改革に及ばない。しかし、税制など枠組みが変化するときには意外と新しいことが進みやすい。今回もキャッシュレスの普及などが想定されている。大阪屋栗田も11月から社名を変更するというが、これも新しいことのきっかけになることを期待したい。

(星野)