第11回渡辺淳一文学賞に高瀬乃一氏『天馬の子』

2026年5月20日

 集英社と一ツ橋綜合財団が主催する第11回渡辺淳一文学賞の贈賞式が5月15日、東京・千代田区の東京會舘で開かれ、受賞作『天馬の子』(KADOKAWA)の著者・高瀬乃一氏に、集英社・林秀明代表取締役社長より賞状と記念品、副賞200万円が贈られた。

 

『天馬の子』で渡辺淳一文学賞に選ばれた高瀬乃一氏の写真

『天馬の子』で渡辺淳一文学賞に選ばれた高瀬乃一氏


 同賞は、昭和・平成を代表する作家・渡辺淳一氏の功績をたたえ、純文学・大衆文学の枠を超えた、人間心理に深く迫る豊潤な物語性をもった小説作品を顕彰するもの。選考委員は浅田次郎氏、小池真理子氏、高樹のぶ子氏、東山彰良氏、宮本輝氏が務めた。なお、浅田氏は今回をもって選考委員を退任した。


 受賞作『天馬の子』は、江戸時代の東北・南部藩を舞台に、馬と深く関わりながら生きる人々の姿を描いた歴史小説。1973年愛知県生まれ、青森県在住の高瀬氏は2020年に「をりをり よみ耽り」で第100回オール読物新人賞を受賞した作家で、23年に初の単行本『貸本屋おせん』を刊行している。


 受賞あいさつに立った高瀬氏は、地元・青森に移り住んだ後、近隣の牧場跡地や馬の資料館を通じて地域の歴史に触れたことが執筆の出発点となったと語り、「南部の歴史と馬の生を書こうと思った」と述べた。


 選考委員を代表して講評を述べた東山彰良氏は、「第1回の投票で、この作品がほかより一歩抜き出ていた」としたうえで、「議論を重ねるなかで、じりじりと差を広げ、最終的には頭一つ抜けた形で受賞が決まった」と選考経緯を説明した。また、作品について主人公リュウの造形を週刊少年漫画的な出発点としながら、「雪深い東北の、子どもの力では打破できない現実の厳しさを、作者は淡々とした筆致で描いた」と評し、「クライマックスの長いせりふが、育ってきた場所や出会ってきた人を総括するような内容で人の心を動かす」と述べ、今後の作品展開への期待を示した。


 第1回から選考委員を務めてきた浅田次郎氏は退任にあたり、異なるジャンルの作品を横断的に評価する難しさにも触れつつ、「普段親しまない分野の作家のものを読むことが大変新鮮だった」と11回にわたる選考を振り返った。受賞作については、「花鳥風月、つまり自然の美しさを描くことが、人間を描くことに直結している」と評した。

 

受賞作品『天馬の子』(左)、『天馬の子』受賞掲載誌(右上)、『渡辺淳一 恋愛小説セレクション』(右下)