文化通信社は7月17日、トーハン代表取締役社長の川上浩明氏を招いたセミナー「出版流通をどう維持するのか トーハンが見据える未来を聞く」をオンラインで開催した。トーハンは今年6月から国内コンビニエンスストアの雑誌配送をほぼすべて引き受ける体制となり、出版流通の7割を担っている。

オンラインセミナーを行う川上氏
川上氏はまず、市場規模の縮小と同時に、政策的な運賃単価の急騰が吸収困難な水準に達している現状や、書籍が中心となっていく市場への対応といった課題を挙げ、日本の出版市場に似たドイツをモデルにした新しいマーケティング型出版モデルを目指すべきだと説明。
両国の配本状況や書籍の生産体制、マージン比率などを比較し、「日本の強みである共同配送を維持しながら、持続可能な流通を作っていくことが重要」だとして、流通を最大効率化させる「輸送ルートの最適化」や「雑誌送品の拠点再編」、「物流協業の拡大」といった取り組みを紹介した。
次に、書籍流通へ向けた収益改善のため、近刊情報を提供して事前受注できるプラットフォーム「en CONTACT」(エン・コンタクト)や、業界全体で年間約130億円(推定)にものぼる失注額を回避する手段としてのデジタル印刷、Pubtexが推進しているRFIDタグなどについて言及。
また、店舗売上の拡大に向けて約5万店あるコンビニエンスストアのポテンシャルに触れ、「見せ方や売り方だけでなく出版流通で運ぶことができる商材を増やし、出版輸送の積載効率を上げることが命題」だとし、新商材開発の事例のほか、他業種のポップアップ、コンテンツ制作などを紹介。
さらに開業に関わる費用を簡略化した「HONYAL」には2024年10月のリリースから500件を超える相談が届き、その内38件が成約。「(HONYALによって)28.6%ある無書店自治体を解消していきたい」と期待を寄せた。
後半では、海外市場へ向けたエージェント管理システム「TORAS(トーラス)」や、6月の北京国際図書博覧会への視察、今年サウジアラビアにオープン予定のセレクトショップなどを紹介し、「海外でも展開して国内の取次事業を守っていく。新規と既存事業の両輪でしっかりやっていく」と語った。
最後に川上氏は、書店向けシステム「TONETS V」や無人営業化ソリューション「デジテールストア」についての参加者からの質問に応じ、「業界の川上と川下の真ん中にいる立場として、うまく舵取りをしながら業界全体が前に進んでいけるように頑張っていきたい」と結んだ。