【インタビュー】齋藤健経済産業大臣に聞く なぜ書店を支援するのか、書店振興PTに多くの反響

2024年5月28日

齋藤健 経済産業大臣

 経済産業省は街の書店を支援するため、今春「書店振興プロジェクトチーム」を発足し、夏には方向性を示すため、書店関係者へのヒアリングなどを進めている。プロジェクトチームを大臣直轄で立ち上げ、「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟(書店議連)」の幹事長も務める齋藤健経産大臣に、書店を支援する理由や方法などについて聞いた。

 

「書店」「図書館」「ネット」共存が理想

 

――経済産業省としてプロジェクトチームを立ち上げた経緯と理由を教えてください。

 

 私は人が本と出会う場所は「書店」、「図書館」、「ネット」の3つだと考えています。それぞれ持ち味が違うので、3つが共存していることが、本というコンテンツの在り方として理想だと思っています。それなのに、書店だけが減っている現状を放置していて良いのだろうか、という問題意識を以前から持っていました。

 

 そんな折に経済産業大臣を拝命したので、この問題に光を当てて、課題として皆さんに認識してもらうために、省内にチームを作り、書店の皆さんと一緒にできることを作り上げていこうと考えたのです。

 

――なぜあえて書店を支援するのですか。

 

 日本の文化、日本人の教養、さらに言えば日本人の人間力といったものと深く結びついている産業だからです。そして経産省的に言えば、重要なコンテンツ産業の一つだからです。

 

書店の重要性、多くの人に気付いてほしい

 

――書店に期待している役割は何ですか。

 

 私自身を含めて本好きの人は経験していると思いますが、棚にたくさん並んだ本が一気に視野に入ることがすごく重要です。そんな時、それまで関心がなかったのに気になる本が浮かび上がります。

 

 個人的な話になりますが、いまは取り壊してしまった八重洲ブックセンター本店で、たまたま見つけた上下2冊の原敬の本から大きな影響を受けたことがあります。

 

 その時になぜその本を手に取ったのかは覚えていませんが、本に呼ばれた気がします。その本を読んで、こういう政治家がいたんだと感銘を受けました。当時の私は40歳前後で、その後、選挙に出ましたから、私のモデルケースになった本ともいえます。その後何度も読み返していますし、原敬について書かれた本はほとんど読みました。

 

 こうしたことは図書館でも経験できるかもしれませんが、手元に置いて何度も読み返したり、線を引いて読むことはできません。それからウェブでは書店の棚のような一覧性は難しいでしょう。

 

 多くの人がこうした書店の役割と重要性に気付いて、書店が大事だと思ってもらえればと考えています。

 

各部局、省庁が連携する体制構築

 

――プロジェクトチームはどのような構成ですか。

 

 経産省で幅広くコンテンツ産業を扱う商務情報政策局コンテンツ産業課を事務局として、中小企業支援ツールを持っている中小企業庁の関係部局などで構成する部局横断の組織です。省内の調整も必要なので、各部局間の連携がスムーズになるように大臣官房の総括審議官をプロジェクトチーム長にして、私が直轄する体制を組んでいます。

 

――他省庁との連携はいかがですか。

 

 省庁間の連携は常にやっていますので、必要に応じて一緒にやっていこうと思います。特に、文部科学省、文化庁、公正取引委員会とは連携を深めていく必要があると思います。

 

書店に足を運んでもらう

 

――書店経営者との車座ヒアリングでは事業再構築補助金やRFID、キャッシュレス、無人書店などが話題になりましたが、どのような支援が考えられるのでしょうか。

 

 できるだけ課題、論点を広く洗い出したいと考えています。その中で、政府がお役に立てること、業界で話し合うことで前進するもの、他の省庁に動いてもらうものなど、課題を整理する必要があります。

 

 経産省では、すでに多くの中小企業政策がありますが、私の実感として、書店がどんどん使っているという感じはありません。どういう支援策なら書店で使っていただけるのか提案することはできるかもしれませんし、すぐに手を付けるべきこともいくつかあるのではないかと考えています。

 

 ただ、政府の関与だけで書店の課題を根源的に解決するのは難しいと思います。むしろ、動きを起こすことで、書店が大変な状況にあることを、多くの本好きの人や国民の皆さんに知ってもらい、書店に足を運んでもらう。その時に魅力あるお店になっているというのが、最も効果的だと思います。

 

 近年、全国でいろいろな新しい魅力的な書店もできているので、従来型の書店とともに、そういう新しい書店のチャレンジを、地域と協力しながら中小企業支援策で応援することも必要でしょう。

 

 また、多くの人が書店に興味を持ってもらうために、メディアにも期待しています。実際にプロジェクトチームを立ち上げたことを発表して以来、担当課も驚くぐらいマスコミも含めた多くの反響をいただいています。

 

 能登地震でも、珠洲市にある街の書店(いろは書店)が被災から早期に営業を再開したニュースが大きく取り上げられました。これも書店が地域の人にとっていかに重要な存在かということを表しています。

 

 潜在的に、書店がなくなったら困ると思っている方は多いのではないでしょうか。プロジェクトチームは経産省の仕事ではありますが、そういう流れを作っていくことが大事です。この反応を見てると、書店にはそのポテンシャルが充分にあると思います。

 

夏には方向性示す

 

――車座ヒアリングでは、書店側から創業支援を求める声もありましたが。

 

 まず、書店がないのは残念だという空気を作ることでしょう。例えば、衆議院宿舎近くの赤坂駅周辺には書店がなくて不便な思いをしています。もしその周辺で書店を開けば、その店で買おうと思う人は結構いるんじゃないかと思います。

 

 もちろん地代など課題は多いでしょうが、書店が大事なんだ、書店があった方が良いという空気を作っていくことで、創業する人を後押しできるのではないでしょうか。

 

――プロジェクトチームの検討スケジュールはいかがですか。

 

 時間があまりないので、どこまでやれるか分かりませんが、夏には一つの区切りで、どのような対策をするのか方向性は出せると思います。

 

書店ほど素晴らしい空間ない

 

――お忙しいと思いますが、いまも本は読みますか。

 

 歴史ものが多いですね。最近読んで面白かったのは平清盛の本です。清盛は日本の政治体制がどうあるべきかという考えを持ってました。もう少し長生きしてたら、日本はもっと変わったのではないかと思います。

 

 一方、平家を滅ぼした源頼朝も、貴族中心の社会から武家の時代に社会を180度変えましたので、それもすごいと思います。本を通して、そういう人たちのやってきたことを感じることによって、今の政治の世界でどう消化していけるのかと考えさせられます。

 

――最後にメッセージをお願いします。

 

 本の素晴らしさに尽きます。素晴らしい本がたくさんあって、自分が経験していないことを、読むことによって経験させてくれて、蓄積できる。そういう本が書店に行けば山ほどある。こんな素晴らしい空間は他にありません。そういう意味で、書店は面白くて意味のある仕事です。

 

 行政的な手伝いが必要なところは一生懸命やりますが、我々自身が書店を大事にしなければなりません。

 

――ありがとうございます。

 

齋藤健(さいとう・けん)氏

 

 経済産業大臣、街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟幹事長。

 

 1959年東京都生まれ。83年東京大学経済学部卒、通商産業省(現・経済産業省)入省、91年ハーバード大学大学院に留学、2009年第45回衆議院議員総選挙比例南関東ブロックで初当選、17年農林水産大臣、22年法務大臣、23年経済産業大臣に就任

 

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【特別寄稿】教育、文化の未来に必要な支援策 書店業界に問われる「三つの観点」(小説家・書店経営者 今村翔吾氏)

 

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日 時:7月25日(木)
 基調講演10:00~10:30、パネルディスカッション10:40~11:45
主 催:株式会社文化通信社
参加料:オンライン視聴7,000円

登壇者
齋藤健氏
 経済産業大臣・「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」幹事長
山口寿一氏
 公益財団法人文字・活字文化推進機構理事長・読売新聞グループ本社代表取締役社長
白源根氏(基調講演)
 本と社会研究所代表(韓国)
司 会南美希子氏

詳細・申し込み:https://forms.gle/g1ZpjdcnLNwkiX8u6