新潮社、小林秀雄賞とドキュメント賞贈呈 蓮池氏「全部吐露することがどういうことになるのか考えざるを得ない」

2009年10月8日

 第8回小林秀雄賞、新潮ドキュメント賞の贈呈式が10月2日、東京・港区のホテルオークラ別館で行われた。小林秀雄賞は水村美苗『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(筑摩書房)に、新潮ドキュメント賞は蓮池薫『半島へ、ふたたび』(新潮社)に贈られた。

 

 新潮文芸振興会・佐藤隆信理事長は「今年は出版をしている私にとってもうれしい作品に賞を贈ることができて心から喜んでいる」と総評。『日本語が亡びるとき』について「普段、日本語の良さを意識することは少ない。日本の素晴らしさ、いま置かれている現状が大きな気持ちとして伝わってきて元気づけられた」と話した。

 

 また、『半島へ、ふたたび』についても「拉致問題は一向に進展していないように見える。実際のところは全く分からないが、作品を読むと、非常に遠くにある拉致問題に思いを馳せることができる。読者の中にもそういった思いが増えていけば、問題解決にも少しは役立つのではないか」とあいさつした。

 

 小林秀雄賞選考委員代表の養老孟司氏は「水村さんの日本語に対する情念、強い感情が書かれおり、言葉というものがどういうふうに力を持ち、どういうふうに持っていないのか考えさせてくれた」と話した。また小林秀雄賞に関して、「最も正統的なテーマの作品を選べた」と述べた。

 

 新潮ドキュメント賞選考委員代表の藤原新也氏は「この人は文章が書ける。この作品にはそう思わせる、きらっと光る文学的な部分がある。その多くが北朝鮮に触れた部分だった」と推薦した理由を話した。

 

 その上で、どうして北朝鮮のことを書かないのか尋ねた時に「拉致被害者が帰国して戻ってきた時に、さまざまな情報をこちらから話してしまう風潮を作ってしまうと、今後北朝鮮に残されている人は帰れない」と明解な答えが返ってきたと述べた。

 

 その上で藤原氏は、「そういう心があるのなら、もう北朝鮮のことは書けないのではないか。作家としての空白の半生を描けないのは非常にハンディだ。ぜひ北朝鮮のことを書ける状況になって欲しい」と述べた。

 

 蓮池薫氏は受賞者あいさつの中で、「交渉が進展していない状況で問題が風化しないように関心を持って欲しいが、今残されている方々の帰国の上で良いことなのかが判断基準。今はその基準に基づいて書いていかざるを得ない」と苦しい胸の内を話した。

 

 その上で「書きたい気持ちはある。しかし、それを全部吐露することがどういうことになるのか考えざるを得ない。今後はそういった中でものを書いていきたい」と述べた。