【行雲流水】2025年9月30日付

2025年9月30日

某月某日


 千家前家元・千玄室宗匠の突然の訃報。海軍→同志社大学という共通の経歴からか、5年後輩だった父は生前宗匠を敬慕していた。毎年の初釜初日に招かれるVIPと同席する点心席でいつまでも酒杯を重ね、一人辞さなかったことを後年詫びた折、大きな眼を細めてにっこりされた笑顔が懐かしい。身体も心も、偉丈夫であった。


 「ギフトブックキャンペーン」で発行する冊子にも二年間選書を快諾、『文明の衝突』(S.ハンチントン)と『スリーカップス・オブ・ティー』(G.モーテンソン他)のほか、『源氏物語』、『だから古典は面白い』(野口悠紀雄)を推薦された。


 尽くせぬ感謝を胸に、今朝も『スリーカップス…』を読み返している。苦手な古典にもトライしたい。


 某月某日


 韓国・ソウルで友人たちと落ち合う前日、一年半前の小紙「ソウル通信」で白源根さんが紹介していた「高い入場料にも若者が並ぶ漫画書店『GRAPHIC』」を覗く。


 小高い丘に並ぶ邸宅街から少し下った、あたかも要塞のような建物にそれはある。13時から23時まで営業、入店料2万ウォン(約2150円)を支払えばフリードリンク。19歳未満の入店と食べ物の持ち込み不可、ラップトップ使用禁止。洗練されたデザイン空間を貫く三層吹き抜けの螺旋階段の壁面と各フロアには、日本などの漫画、グラフィックノベルや、画集、写真集などアートブックが並ぶ。


 平日の開店間もない昼下がりにもかかわらず、すでに20名近い若者たちが黙々と本を読んでいる。所々に配置されたスピーカーからは読書を邪魔しないテンポの音楽が静かに流れている。ステキな本に触れるステキな空間は、若者の心をむんずと掴んでいた。


 某月某日


 駒込駅から程近い古民家で、V社音響システムの現調に立ち会う。当社創業80周年に先立ち「書店でも図書館でもない(売らず・貸し出さず)、読書に没入する空間」を、建物を所有する篤志家の力添えで改装したのち、開設する。


 当面は6名定員、100分間入れ替え制で、ハイレゾ音源で流れる森の音と一杯の珈琲とともに、著名人が選書する本をひも解く=「心のフィットネス」がコンセプトである。夕刻以降や週末は、著者イベントや絵本の読み聞かせなどで利用してほしい。彼方此方の法人・個人が所有する〝有休資産〟が、「著名人が選ぶ本と出会う場」となれば、嬉しい限りである。