【出版時評】2025年7月1日付

2025年7月1日

世界に広がる出版市場

 

 早川書房の早川浩社長が執筆中の日本経済新聞「私の履歴書」が興味深い。海外留学先で出会ったアメリカの大物エージェントや、誰もが知るような大作家との交流、版権取引の生々しい話など、翻訳出版を担った貴重な経験が綴られている。


 古くは中国から、日本は海外から出版物を輸入して我が物とすることに長けてきた。大学生の頃、『漢和辞典』は中国語の辞典であり、漢文読み下しは中国語の翻訳なのだと教えられ、「なるほど」と思ったのもその歴史である。


 明治維新以降は、欧米からの輸入が中心になり、翻訳書大国といってよいほど多くの海外の書物が書店や図書館の棚を飾っている。早川書房など出版社のおかげである。


 一方で、近年は日本の出版物が海外に出ていくことも増えた。当社のセミナーに登壇したサンマーク出版国際ライツ部・小林志乃部長によると、いまは、イギリスやドイツをはじめとしたヨーロッパでも、〝日本の文芸ブーム〟が起きているという。


 背景にはマンガのヒットがあり、そこから日本の様々な出版物に関心が広がっているようだ。また、ネットによって多様な情報流通が容易になったことや、AIによる自動翻訳なども要因だろう。


 動画配信によって、映像コンテンツの国境がなくなりつつあるが、出版物の市場も世界に広がる可能性が増してきた。【星野渉】