新刊の事前発注が拡大
ドイツで書店を訪ねた折に、店長が出版社から送られたカタログを示し、今後発売される新刊を注文するのだと説明すると、同行した日本の書店人から「新刊を全て事前に注文することができるのか?」と驚きの声があがった。その店長に「日本では新刊が自動的に送られてくる」と話すと、店長は驚きの声とともに「悪夢だ」と目をむいた。
すべての商品を注文して揃える彼らからすると、頼んでいない商品が送られてきて、請求されるのは「悪夢」なのだろう。それぞれが当たり前だと思っている仕組みも、見方を変えれば異質に見える。
日本の書籍返品率が欧米に比べて高いのは、書店が新刊を事前注文しないからだ。定価販売の有無や、取次経由の比率などは欧米でも国によって様々だが、新刊を見計らい配本する国はないからだ。
KADOKAWAは特約書店に対して、新刊の事前注文ができるようにしたところ、返品率は下がり、提示された推奨数より注文数を増やす書店が多いという。この仕組みを浸透させるには、相当の時間と労力をかけたようだが、日本の大手出版社で新刊の事前注文をここまで恒常化するのは初めてだ。
同社は大手取次とも事前発注を拡大し、ブックセラーズ&カンパニーとは取引契約を結び直接取引を開始する。「すべての新刊を事前に注文するのは無理」という概念も変わりそうだ。 【星野渉】