【出版時評】2024年1月23日付

2024年1月22日

書籍出版社の決断に期待

 

 一般社団法人出版梓会の理事長が江草貞治氏(有斐閣)から下中美都氏(平凡社)に交代した。江草氏は2020年に理事長就任、23年の梓会75周年を経てバトンを渡した。創業は有斐閣1877年、平凡社1914年といずれも老舗出版社だ。

 

 出版梓会は終戦間もない1948年に設立された人文社会科学系書籍出版社の団体だ。1957年設立の日本書籍出版協会よりも古く、会員社は各分野を代表する著名な出版社をはじめとして108社に及ぶ。

 

 毎年行っている梓会出版文化賞は、ほかにあまりみられない出版社を顕彰する賞だ。受賞社のリストには、会員に限らず、新興の1人出版社などの名前も並ぶ。その贈呈式の懇親会で、江草前理事長は「すべての業界課題は、最後は出版社の決断にかかっている」と指摘した。物流問題や書店の苦境なども、再販売価格維持、委託扱い配本などの「川上」にある出版社が責任を持つ必要があるという考えだろう。

 

 至極まっとうな指摘だと思う。これまで完璧な取次システムに支えられ、ややもするとそれに依存してきた出版社だが、その流通の仕組みが大きく揺らぐ中で、あらためて業界の形を再構築しなければならなくなっている。しかも、議論の中心は長年業界を支えてきた雑誌から書籍に移っている。出版梓会の活動に期待したい。【星野渉】