【出版時評】2023年10月10日付

2023年10月10日

 

全国配送網と指定配本

 

 明石市で出版活動を続けるライツ社は、年間5~6点の新刊を刊行し、手掛けるジャンルはビジネス、実用から最近は児童書など幅広く、小規模ながら重版率は6割を超えるという。

 

 かつて地方出版というと、郷土史など地域に根差した本を作ったり、自治体の仕事を請け負うなど、地域に「こだわり」かつ「しばられる」イメージもあったが、ライツ社が刊行する出版物からはいい意味であまり地方を感じない。

 

 最近地方で創業する出版社は、単に東京など大都市ではない場所で出版をしているだけだ。これはやはりインターネットによってコミュニケーションの手段が格段に進歩したためだろう。

 

 そんなライツ社の本が全国に流通して売れるのは、取次のおかげだと大塚啓志郎社長は話す。一方で、ほとんどが書店からの注文にもとづく指定配本だとも。確かに日本の取次システムは、パターン配本と呼ばれる仕組みによって他国に比較してきわめて「出版しやすい」環境を作ってきた。その「配本システム」が崩壊しつつあるわけだが、そうなっても、書店が納得して注文すれば高い重版率に結び付く。

 

 大塚氏の話を聞いていて、書店配送網というインフラを維持しつつ、需要にもとづく配本体制に移行することが、これから目指すべき出版流通システムであるとあらためて思わされた。【星野渉】