【出版時評】新聞社と出版社が連携し価値高める

2023年3月14日

 文藝春秋が1月に刊行した『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』が13万部の売れ行きになっている。元は広島県にある中国新聞社の記事。地方紙のコンテンツが大きな広がりを見せた例だ。

 

 「人生100年時代のモデルを見つけた」で始まった中国新聞の連載「哲代おばあちゃん 100歳 きょうも好日」は、連載開始時100歳だった石井哲代さんを、同紙の記者2人が毎月取材し続けた企画。日常の暮らしぶりが、哲代さんの語り口調で綴られている。

 

 対象に密着し続ける地方紙ならではの記事だといえる。連載中から哲代さんが地元テレビで取り上げられたり、講演会が開かれるなど大きな反響を呼んだ。しかし、もし連載がそのまま終了していたら、この話は時間とともに埋もれていたかもしれない。新聞社が出版したとしても、これだけ広がったか。文藝春秋という出版社と結びついたことで、全国の書店でも展開され、コンテンツに新たな価値を与えたといえる。

 

 取材をする者なら、記事が載ったそばから消えていくことに残念な思いを抱いたことがあるだろう。書籍は定期紙・誌やネットは違うサイクルを与えるメディアだ。

 

 全国の地方新聞や地域紙と出版社や書店が結び付くことで、多くのコンテンツに光を当て、後世に残すことができると感じた。

 

【星野渉】