【出版時評】「音羽」と「一橋」が手を組む

2022年12月6日

 出版業界のインフラとして定着した「出版VAN」は、1990年代初頭に出版社有志が構想を立ち上げ、講談社と大阪屋(現楽天ブックスネットワーク)のEDIからスタートした。まずはできるところがやり、それを広げていく形をとった。 規模やジャンルが違う多くの出版社、そして個人経営から全国チェーンまである多くの書店などが、すべて合意することは難しい。全体の利益を考えたうえで、誰かが着手するしかないのであろう。

 

 「出版VAN」が業界全体の動きになった背景として、構想を持った講談社が小学館に声をかけたことがある。それまであまり例を見なかった「音羽」と「一橋」の連携が成立したことで、業界を動かす原動力になったといえる。 出版流通にRFIDを導入しようとしているPubteXも、「音羽」「一橋」連携による取り組みだ。そこには、出版流通、特に書店の今後への危機感がある。

 

 ICタグは、かつて経済産業省の支援も得て実証実験を繰り返しながら導入に至らなかった。しかし、当時と比べて出版流通や書店の苦境は大きく進行した。いま手を打たなければ、との思いが、新たな枠組みを生んだといえる。

 

 PubteXのショールームには出版社、取次、書店の関係者が多く訪れているという。議論はあると思うが、新たな業界インフラとなることを期待したい。  

【星野渉】