数年ごとに、ふと聴き返したくなる楽曲がある。1986年夏、ニッカウヰスキーのCMに採用され大きな反響を巻き起こしたので、50代、60代の人ならうっすらと記憶に残っているかも知れない。ソプラノ歌手のキャスリーン・バトルが歌う「オンブラ・マイ・フ(Ombra mai fù)」。草原に立つ白いドレス、伸びのある透き通った声と気品の高さにやられてしまった。このCMでスーパーニッカの売上げは2割増えたとか◆この曲はヘンデルが作曲したオペラ『セルセ』第1幕冒頭のアリア、だと知ったのは今月聞き返した際に検索して知った。そしてなんと、ウルトラマンやウルトラセブンの演出でも知られる実相寺昭雄さんがCMの演出を手掛けていたという。30数年来、この背景を知らずに過ごしてきたわけだ。でも、それはどうでもよい。なぜ数年の時を経てまた聴きたくなるのか。そこにある心境の変化を深堀りしてみたい。【櫻井俊宏】