【出版時評】書店による公共図書館運営に期待すること

2022年5月31日

 東京の町田市を中心に書店を展開する久美堂が、指定管理者として同市公共図書館の運営を受託した。地域書店が地元の図書館運営に関わる事例はすでにあるが、図書館運営がこうした書店にとってどのようなメリットを及ぼすのか注目される。

 


 かつて、書店にとって図書館は、納入先ではあっても、運営に参加する対象ではなかったが、指定管理制度の広がりによって、関係が変わってきた。制度が始まった当初は、カルチュア・コンビニエンス・クラブが武雄市図書館の運営を受託して注目されるなど、指定管理者は図書館納入の専門業者や大手書店などが中心だったが、広島の啓文社が尾道市や三原市の図書館運営に参加するなど、地元書店による受託も見られるようになった。

 


 指定管理者になるためには図書館運営の経験が条件だったり、そもそも自治体が直営よりコストを下げるために導入していることが多いので、受託したからといって、大きな利益を得ることは難しいなどの課題はあるものの、書店にとって新しい事業領域だといえる。

 


 ともすれば出版業界から「無料貸本屋」といった批判も受けてきた公共図書館だが、書店が運営に参加するようになることで、お互いの意識が変わってくるかもしれない。本を扱う者同士、信頼関係が築かれることを期待したい。   

【星野渉】