【出版時評】紙とデジタルが日常になる技術

2021年12月21日

 コロナも2年目となると、非常時だった生活や仕事のペースはもはや日常になっている。映画で描かれるパンデミックは終息でハッピーエンドだが、現実はそれが日常になるのだから、人間の順応力は映画のヒーローよりしぶといと感じる。

 

 本紙紙面も年内最終号となった。ただ、デジタル版ではその後も発信を続ける。これも新たな日常だ。出版業界の風物詩だった雑誌の年末進行も、様変わりしていくのだろう。

 

 今年の出版業界重大ニュースのトップに、メディアドゥとトーハンによる「NFT特典」付き出版物をあげた。容易に複製できる電子コンテンツをユニークに管理できる技術は、デジタルコンテンツが本格的な「出版物」として、紙と近い形で流通可能になることを意味する。

 

 大量生産しつつ、複製を管理しながら著作物を流通・再生産する仕組みは、まさに紙と印刷技術・製本技術によってもたらされた出版ビジネスの隆盛と同じである。いよいよ我々にとってデジタル出版が日常となる段階に至ろうとしているのであろう。

 

 そうなれば、長年慣れ親しんだ仕事の仕方や技術の変化はさらに加速する。新しい時代になじめるのか不安もあるが、人間の順応する力を信じたい。紙と電子が当たり前になる時代に。        

 

【星野渉】